2015年04月
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以前このコーナーで山陽新幹線の車内販売が変わりつつあるとレポートした。今回はその進化型の話を書く。山陽新幹線は今年で40周年を迎える。それを記念してというのは少し大袈裟だが、JR西日本の系列会社・ジェイアール西日本フードサービスネットでは、この5月より「走る日本市」と題したプロジェクトを行っている。昨秋は和歌山県ディスティネーションキャンペーンの一環で、湯浅醤油の「魯山人」醤油も車内販売されていた。この企画は、同醤油や熊野筆のチークブラシ、児島のデニム製ウエストバックなどの売れ行きが好評なことに活路を見い出した同社が、新幹線車内ワゴン販売の続編的試みとして打ち出したもの。さて、「走る日本市」とはどんなプロジェクトなのだろうか。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
山陽新幹線「走る日本市」は、地方
工芸品に新たな活路を見い出すか!?

中川政七商店とコラボして新たな土産物を

山陽新幹線

これまで列車内では必要なものを売るというのが、販売の鉄則だった。ところが山陽新幹線の車内販売などを担当するジェイアール西日本フードサービスネットが、車内で必要のないものを売り出してから、ワゴンサービスの考え方が一転している。新幹線の乗客は、1時間以上その席に座り続けており。別段これといってすることがない。言い方は悪いが、乗っている間はそれほど忙しくはなく、暇を持て余している。そんな人達にプレゼンし、商品を見定めてもらう時間を与えるべきなのでは…との考え方が今回の発想の原点らしい。新幹線の移動中、乗客に「コレは!」という名品を見せれば、確実に耳を傾けてくれる。それが現在も行われている(販売されている)「逸品厳選」ブランドで、その成功例が「魯山人」醤油であり、倉敷デニムであり、京扇子や三朝温泉のミストなのだ。

山陽新幹線 ただ、うまく運んでいるものの、その企画を突きつめれば、突きつめるほど、JRではこういった取り組みが苦手だということがわかった。そして地域の伝統工芸品を土産品として販売することの難しさを覚えたのだ。手に取ってもらう、目をひいてもらうにはある程度洗練されたデザインが必要だと理解したのである。けれど、それを地方の工芸品の作り手に求めるには、これまた難しい。彼らも長年伝統工芸には携わっているものの、商品企画は不得意だったからだ。そこで白羽の矢が立ったのが奈良の中川政七商店だった。同社は300年続く麻織物・奈良晒のメーカーで、このところ急成長している会社。デザイン的にも優れたものを多く発しており、「日本の工芸品を元気にする!」のコンセプトをもとに中小のものづくり会社をコンサルティングして再生させている。

山陽新幹線

5月から山陽新幹線車内で始まった「走る日本市」は、ジェイアール西日本フードサービスネットと中川政七商店がコラボした企画で、JR西日本管内の特別な土産物をワゴンとインターネットで販売しようという内容だ。第1弾は5月下旬から8月下旬までで、テーマを山口県に据えている。ここで販売されるのは、「柳井縞名刺入れ」(7000円)、「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分、WASARA猪口付き走る日本市セット」(850円)、「フルートナツカネード」(1080円)、「ふくハンカチ」(1300円)、「走る日本市ふきん山口」(500円)の5アイテム。このうち二つめの日本酒は流石に酒なので酒販免許の関係から車内で飲用するのみとしている。そのためには何か差別化をしようと、上質な紙の猪口・WASARAを付けたのだ。これら5つは、山陽新幹線のために地元とメーカーといっしょに開発したオリジナル(獺祭のみはWASARAを付けることでオリジナリティを出している)。8月下旬までは山口のメーカーと取り組んでいるが、その後は福岡(8月下旬~11月下旬)、石川(11月下旬~翌2月下旬)、岡山(翌2月下旬~翌5月下旬)と続いていく。

工芸品のみならず食分野も充実

工芸品

今回の5アイテムのうち、柳井縞の名刺入れは、価格が7000円もし、従来の車内販売では考えられない値段だ。そもそも柳井縞は、岩国藩が江戸期の宝暦10年(1760年)から始めた検印制度により全国に紹介された綿織物で、一時は盛んだったが、衰退していた。それを伝統工芸品として復活させたのが手織りの布・柳井縞なのだ。「走る日本市」では、その特徴である縞柄を新幹線に見立てて名刺入れとして商品化した。名刺入れのデザインの一部であるグレーのドットは、新幹線(N700系)の窓に見立てており、実際の300分の1にしたというから“鉄ちゃん”には応えられないだろう。「走る日本市」は、山口がテーマということで、今流行りの日本酒・獺祭もラインナップしている。同商品は、タイトル通り、米を3割9分まで磨いて造ったもの。華やかな上立ち香と、口に含んだ時に見せる蜂蜜のようなきれいな甘みが特徴である。今ではなかなか手に入りにくいとされる銘柄を組み込んでいるところも見逃せない。

食分野 このプロジェクトは、これらオリジナル商品だけでなく、地方で名品と呼ばれる土産物もいっしょに販売している。第1弾の山口県にちなみ、「月でひろった卵」(蒸しカステラの中にクリームが入ったもの)や「仙崎のチーズコロン」(カマンベール風味のチーズを魚肉すり身で包んだ一口蒲鉾)、「夏みかんジュレ」(夏みかんの果実をそのまま搾ってゼリーにしたもの)もラインナップさせているのだ。

食分野

ジェイアール西日本フードサービスネットでは、今回の企画を認知させるために大漁旗をイメージした特別なワゴンを数台用意し、車内販売に務めている。ちなみにこのワゴンは、キャンペーン中、約1割がそのラッピングになっており、これも萩の大漁旗メーカーに注文して染めてもらって作ったようだ。今までのように気軽に買えるものと、プレゼンすることで土産物として手に取ってもらえるもの、そしてさらにここでしか買えないオリジナル商品と、複雑化していくワゴン内商品。車内だから売る商品ではないと、はなからはねつけるのではなく、面白いから売ろうに変化しつつあるのが興味深い。こういったことで新たな販路が生まれるのだとしみじみ思った。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい