2014年10月
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新幹線車内のワゴン販売を利用したことのある人は多い。大半の人はコーヒーなどのソフトドリンクを求めたり、ビールなどのアルコール類を求めたり、はたまた弁当を買い求めたりしている。つまり車内販売は、必要なものだけを売るをコンセプトに進められていた。ところがこのところJR山陽新幹線で異変が起きている。この車内販売用ワゴンには、広島の熊野筆のチークブラシや倉敷のデニムで作ったウエストバッグが売られており、その中に「魯山人」醤油も今秋のみラインナップされている。今、必要でないものまで売り始めた山陽新幹線の車内販売についてレポートしてみよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
新幹線車内で、ココでしか買えない
(⁉)逸品が売られている!

売上げ下降に待ったをかけた策があった

神戸産の野菜

「弁当に、ビール、コーヒー」。これは列車の車内販売お決まりのフレーズ。車内では時間を持て余す人が多く、そんな人達に今、必要なものを売る_、これが車内販売の鉄則だった。ところが近年、それが徐々に変わりつつある。お腹が空いたから弁当を買う、喉が渇いたからドリンクを買うという需要と供給ラインは揺るがないものの、それに加えて必要ないものも売るというスタンスを取り始め、それがJR山陽新幹線でウケているのだ。
2000年を過ぎたあたりから始まった駅中ブームは、百貨店のフロアの如く、駅構内が充実し、ディナーにも使える飲食店は勿論のこと、家に持ち帰り食べる惣菜や家呑みで使えそうなおつまみなど、ありとあらゆるものがラインナップされてきた。そんな駅中店舗充実のあおりを喰ったのが、列車内のワゴン販売。弁当が数多く駅で売られているためにそれを買って車内で食べる人も多く、コンビニシステムまで導入しているので、そこで用を済ませてしまう人もおり、売り上げは下降線を辿りつつあった。JR西日本の場合、駅中で飲食店を展開するのがグループ会社のジェイアール西日本フードサービスネット。片や車内販売を行うのも同社で、あちらで売上がアップすれば、こちらでは下降気味になるという同じ会社内での売り上げの取り合い状態に陥ってしまった。

神戸産の野菜 そこで考え出されたのが車内販売の充実。これまで対象商品として見なしていなかったものまで、その範疇に含め、新たな売り方を探索し始めた。そんな中でヒット商品となったのが京都の扇子や広島の熊野筆。ワゴンの中で珍しいこれらの商品を見つけて手に取るや「娘への土産にしよう」とか、「プレゼントにしてもいいか」と、求めるようになってきたという。山陽新幹線の車内販売を行うジェイアール西日本フードサービスネットでは、この現象を商売の機会ととらえ、考え方も一新して‟車内で必要なもの”だけではなく、‟必要でないものも売る”という路線を導入していった。
考えれば、当たり前で、車内は暇を持て余している。それに対してワゴン販売は絶好のプレゼンテーションの場となるというわけだ。現在、山陽新幹線では、「逸品厳選」と銘打った企画を展開中。これはJR西日本の路線区から、わざわざ買う値うちがあると考えられる商品を集め、ワゴン販売を行うものである。例えば、前述の熊野筆は広島県熊野町の名産品。そのチークブラシ(3200円)は、車内販売では売れないとされていた高価なもの。でも車内プレゼンすることで「現地に行かなくても求められる」とか、「子や孫にいいプレゼントができた」と言って売れ出し、なんと5000本も販売してしまった。この他に国産デニムの発祥地・倉敷市のジーンズメーカーが製作したウエストバッグや三朝温泉や玉造温泉の源泉100%温泉ミストなどもあり、まさに探す喜びがワゴンの中に隠れているといえよう。

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JR西日本では、現在、和歌山ディステネーションキャンペーンを実施中。それにちなみ9月~11月まで山陽新幹線の中で湯浅醤油の「魯山人」醤油が売られている。これはジェイアール西日本フードサービスネットのスタッフが「これぞ、県が誇る名品!」と呼ぶべきものを探したところ、この醤油の美味しさに目をつけ、「逸品厳選」にラインナップしたからだ。100㎏もあるというワゴンの中には、「魯山人」が入っており、幅66cmの通路を進みながら商品が目につくよう販売している。ちなみに和歌山フェアによる車内販売は、「魯山人」醤油の他に、一口サイズの梅ゼリー「小粒梅ゼリー」やみなべの完熟南高梅をミニトマト・優糖星の果汁で漬け込んだ「tomato-ume」、「イノブタジャーキー」「すっぴんジュース」「梅ちらし弁当」である

人気駅弁をあなたの座席まで届けましょう

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山陽新幹線の車内販売には意外と思えるシステムも導入されている。それは駅弁が座席まで届くというサービス。ジェイアール西日本フードサービスネットでは、今回の車内販売強化に伴い、人気の駅弁を自分の座るシートまで届けてくれるサービスも始めている。対象は山陽新幹線区内ののぞみ、ひかり、みずほ、さくらの指定席、グリーン車の乗車客。5日前までに自分の席番号を伝えておけば、新神戸・姫路・岡山・広島・博多の各駅に着いた際に希望の弁当を届けてくれる。例えば、新神戸駅では「ひっぱりだこ飯」、姫路駅では「あなごめし」、岡山駅「桃太郎の祭ずし」、広島駅「夫婦あなごめし」、博多駅「九州縦断味めぐり」などなど。上り下りにより、届ける駅弁は若干違ってくるそうだが、このシステムを利用すると、乗車駅であわてて買う必要もなく、食事の時間を自分でうまく組み込みながら旅ができるというもの。しかもその対象商品が各々の駅の名物駅弁となれば、食べる楽しみも加わってくる。今までありそうでなかったこのサービスを一度体験してみるのもいいだろう。(文/曽我和弘)

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい