92 2021年04月 関西国際空港と隣接して建っているのが「ホテル日航関西空港」。海外や国内に旅立つ時に利用する人も多く、既にお馴染みのホテルである。同ホテルには、「オールデイダイニング レストラン ザ・ブラッスリー」(このコーナーの第87回で紹介)を始め、中華料理「桃李」に、鉄板焼「銀杏」、和彩(和食)「花ざと」と4つのレストランがあり、それぞれ個性的なシェフと料理、趣の異なる空間で顧客から高い評判を得ている。営業部の高橋直樹さんに聞くと、レストランの利用者は、空港利用もしくは宿泊者もさることながら地元の人達が多いそうだ。殊に堺以南の泉州地区の人達がよく来ており、泉州では「三世代が使う店」として名が売れている。今回は「ホテル日航関西空港」の中でも2階に位置する中華料理「桃李」が舞台。「開業以来の生え抜きです」と語る北田利明料理長に湯浅醤油と丸新本家の商品を渡し、それらの特性をいかした料理を考えてもらった。「醤油が替わっただけで料理が変化した」と北田料理長が言うほど、5つの料理はその味わいを十分にいかしていたのだ。さて、北田料理長は、いかにして醤油や金山寺味噌を使いこなしたのか、とくとご覧あれ。

中華料理「桃李」 北田利明
(ホテル日航関西空港「桃李」料理長)
「 樽仕込みは、塩角なく、食材
の味を引き出してくれる醤油。
なめた時に、だし醤油かと思った
ぐらい、まろやかで優しい味がし
ました。
コレを用いることで、中華の濃いイメージを払拭し、
淡い味付けが実現します。」

泉佐野産野菜にこだわる「桃李」生え抜きシェフ

 中華料理「桃李」は「ホテル日航関西空港」の2階フロアにあってなかなか格調高い雰囲気。いかにも重そうな赤い扉を営業時間になると開いて顧客を招き入れている。この店は、開業以来、設之などもずっと変わらず来ているらしい。重厚な内装はいかにも接待向きで、現に地元企業の人達が商談や会食で使うことが多いと聞く。地元・泉佐野を含む泉州地区ではハレの日に行くレストランとして名が売れている。三世代がターゲットというだけあって、慶事事などで祖父母・親・孫と三世代が揃って食事するシーンもよく見かける。久しぶりに家族全員が顔を合わせると、「桃李」へ行こうとなるようだ。「桃李」の基本線は広東料理だが、北田料理長は「そこにこだわっているわけではない」と話す。むしろ万人受けするようにアレンジし、遊び心を加えながら個性豊かな料理を提供するのがモットーだとか。

 北田料理長は、異動が激しい料理界にあって珍しく、生粋の生え抜きシェフ。しかもこのホテルがオープンした時から勤め、「ホテル日航関西空港」とともに料理人人生を歩んで来た。つまり「桃李」こそが彼の味なのだ。そういえば、私の知人でもある大仲一也シェフ(農家厨房店主)もこの店で料理長をしていた時代があった。北田さんは、大仲さんの下でも調理を経験したらしく、だからかもしれないが、食材へのこだわり方が似ているようにも思える。「桃李」では、野菜は泉佐野産にこだわって仕入れている。「モノ自体がいいし、野菜本来の味がする」と言い、農家から直仕入れしながら鮮度の良いモノで調理をしているのだ。食材に関しては和歌山のものも多い。伊勢海老も和歌山産を使っており、和歌山を「食材に恵まれた地」と評している。そこに和歌山の湯浅醤油・丸新本家の調味料が加わるわけだから、面白いものができるに違いないと思った。

 「桃李」では、昼の飲茶食べ放題(平日2980円、土日祝3980円)の人気が高い。かなりの顧客がコレを目的にやって来るということかその充実度はわかってもらえるだろう。それともう一つの人気は、「国産フカヒレの姿煮込み」。この料理は、60g6300円、90g9400円、250g23000円という値段だが、聞くところによると気仙沼からフカヒレを仕入れているらしい。メニューには30gもあるが、気仙沼産は60g以上から。気仙沼のフカヒレはグルメ垂涎の的で仕入れ値もかなりする。その高級品を惜し気もなく使うわけだから人気があるのもわかる。先程、和歌山のものを入れていると書いた伊勢海老も「国産伊勢海老のチリソース炒め煮」(一尾12200円)などに使用している。これまた素材が良質で、この店の人気メニューとなっているという。「桃李」のメニュー表を見ると「海老のチリソース炒め煮」や「海の幸入り五目野菜炒め煮」「牛肉と国産野菜の細切り炒め」などスタンダードな一皿が名を連ねてるが、注文するとわかるように各々に個性が見られる。北田料理長は「中華のイメージを変えたい」と言ってそれらを作っているのだ。「中華は、濃い・辛い・油っこいという印象を誰もが抱いています。でも本来はそうじゃない。ここでは食材にこだわってなるべく地元から仕入れ、素材の味を出せるように調味しています。なので私の料理は、先のその三大イメージが感じられないかもしれません」と北田料理長は話していた。確かに彼の料理は、洗練されており、こってり油っこいなんて微塵も感じられない。店の雰囲気もあるだろうが、だからハレの日や接待で使いたくなるのだろう。

この取材で「桃李」から一つの提案がもたらされた。それは今回取材用に作った料理を4~5月にメニュー化したいというものだ。北田料理長も湯浅醤油の良さに惚れ込み、「そのつもりで考案した」と言っていたのだ。現時点では、どの料理がどういう風にメニュー内に配されるかは分からないが、私一人が味わういつものパターンと違って読者諸君氏も「桃李」へ行けば食せるのだからこの上ない提案であろう。

なめた時にだし醤油かと思ったぐらいまろやかさがある

 

 さて、本取材用に北田料理長が作った料理は、

①桜海老香る静岡産金目鯛と紀州梅まだいの蒸し物 湯浅ゆずぽん酢ソースがけ

②お薦め海の幸3種と彩り国産野菜の湯浅塩麹の紫蘇にんにく炒め

③国産伊勢海老の湯浅紀州金山寺味噌入りにんにく葱ソース蒸し

④黒毛和牛ロースと彩り国産野菜の湯浅蔵出し醤油の甘辛ソース炒め

⑤豆乳抹茶プリン 湯浅魯山人醤油の黒蜜ソースがけ

の5品である。

 まず、「桜海老香る静岡産金目鯛と紀州梅まだいの蒸し物」だが、この料理には「ゆずぽん酢」がソース用素材として使われている。北田料理長は、いつもなら魚醤ソースに醤油を合わせて作るが、今回は香りを優先させ、ポン酢で変化を持たせたいと考えた。なので魚醤ソースを少しにし、そこに「ゆずぽん酢」を合わせている。メイン素材は春らしく鯛で、しかも金目鯛と紀州梅まだいを使って紅白に仕上げた。「紀州梅まだいは、和歌山の食材。梅の種を餌にして鯛を養殖しています。鯛独特の匂いがないのが特徴。そこに静岡の金目鯛を合わせて淡泊なものと、脂の乗ったもので、鯛の違いを味わってもらいたいと考えました」。そして和歌山南部で採れるワカメ「一葉芽」も使い、調味料も相まって和歌山イメージの強い一皿に仕上げていた。「ゆずぽん酢は、あっさりしていて万人が好む味。添加物も使っていませんし、食材の旨みも引き出してくれるので、私の料理コンセプトにぴったりでした。以前から醤油を替えたらどうなるだろうと思っていたのですが、コレを使うと味が良くなりました」と北田料理長は話していた。香りが出すぎるからとピーナッツ油は用いず、蒸した鯛に葱を載せて桜海老のオイルをかけてフィニッシュする。そして二種の鯛を「ゆずぽん酢」のソースで食べるのだ。

 二つめの「お薦め海の幸3種と彩り国産野菜の湯浅塩麹の紫蘇にんにく炒め」は、魚介類と野菜を湯浅醤油の「塩麹」で炒めたシンプルな一皿だった。今回使われていたのは、車海老、ホタテ貝柱、白イカ、そして野菜は泉佐野産のカリフラワーや青物だ。合わせだしの中に沖縄の塩やてんさい糖を入れ、そこに「塩麹」を加えてタレを作るのだ。それだけではあっさりしすぎるので、大葉とにんにくをタレに入れて味を引き立てる。「この料理は広東のスタンダード。中華の油っこいイメージを払拭させたくて和の調味料・塩麹を使ってみました。コレを入れることで塩分より甘みを強く感じられるようになりました。湯浅醤油の塩麹は塩角が立たないからそうなるんでしょうね」。本来、あっさりした一皿だが、そこに味の深みもあって食べ応えのある料理として映った。

 三つめは「国産伊勢海老の湯浅紀州金山寺味噌入りにんにく葱ソース蒸し」だ。この料理には、「桃李」の名物となっている紀州産の伊勢海老が使われ、かなり豪華な一皿になっている。ポイントは、にんにく葱ソースで、北田料理長は以前からもろみで試してみたいと考えていた。そこでいい機会だったから取材用にもらった「もろみ味噌」と「金山寺味噌」を使うことにしたのである。普段ならにんにく、生姜、葱、揚げにんにくを砕いたものに、にんにくオイルを足し、塩コショウで調えるのだが、今回は塩コショウなどの味は入れず金山寺味噌だけで調理した。「蒸した魚にも試しましたが、淡泊な伊勢海老にも合うだろうと思って伊勢海老を選んだんです。金山寺味噌には野菜などの具材が入っているからさらに旨味がアップするんですよ」。添えられたソースは、魚醤を少しに「ゆずぽん酢」を足したもの。これをかけて食べるスタイルにしている。でも伊勢海老自体が金山寺味噌の入ったニンニク葱ソースがかかっているので十分それだけで納得する味になっている。初めはソースをかけずにそのまま食べ、後からソースをつけて食べると、一皿が異なる味になる。「一つの皿で二つの風味に」は北田料理長の料理スタイルでもあるのだ。

 四つめの「黒毛和牛ロースト彩り国産野菜の湯浅醤油蔵出し醤油の甘辛ソース炒め」は「蔵匠樽仕込み」を使った一品である。北田料理長は「樽仕込み」を「角がなく、まろやか。旨みが深い醤油」と高く評している。中華は塩角が立った料理が多いので、コレを用いてあえて淡い味付けにしたそうだ。北京料理の代表的なものだが、野菜の味を出し、まろやかに仕上げたと言っていた。鷹の爪とにんにくを混ぜて香りと辛みを出し、鍋肌に残る熱で火を通していく。そこへ「樽仕込み」を入れて、具材を炒めるのだ。「食材の味を引き出すには、良い調味料を使わねばなりません。『樽仕込み』を用いると、優しい味に仕上がりました。一般的な醤油なら分量の調整は必要だったんでしょうが、コレはきつい味がしないので調整せずとも大丈夫でした」。北田料理長は、初めて「樽仕込み」をなめた時に「コレはだし醤油なのか」と思ったほどまろやかで、深い味を感じたそう。この印象をうまく料理に落とし込んだ一品だったのだ。

 最後はデザート。「豆乳抹茶プリン 湯浅魯山人醤油の黒蜜ソースがけ」は、不二精油の「濃久里夢(こくりーむ)」を使ったもの。同商品は、新しい感覚の豆乳クリームで、大豆由来のもの。生クリームよりカロリーが低く、野菜や果物との相性もいい。調理用クリームとしても使え、しっかりとした厚みとコクが得られる。北田料理長は「魯山人」醤油を見て一瞬で「濃久里夢」と合わせようと閃めいた。かけるとしたら黒蜜のイメージで、そのソースに「魯山人」醤油を加えることにした。黒蜜は、和三盆などの甘み10に対し、「魯山人」1の割合で。それでも十分すぎるぐらい醤油風味が広がるのだ。豆乳プリンは、抹茶があった方が女性受けするだろうと思い「濃久里夢」をベースに作っている。だからだろう、あっさりしている。そして後載せでアイスクリームを添えている。あっさりした抹茶プリンに「魯山人」を使った濃いソースをかけると丁度いい塩梅(あんばい)に。クリームがあっさりしているので、かなり食べた後でもすっとお腹に入っていく気がする。「先程、『樽仕込み』をだし醤油かと思ったぐらいと言いましたが『魯山人』はそれ以上に思いました。なめた時の衝撃は、今でも舌に残っています。この素晴らしい醤油を合わせてソースに仕上げると、風味が広がります。醤油の割合は決して多くはありませんが、香りが凄い。今回は黒蜜ソースに使用しましたが、色んなものに使って行きたいと思わせてくれる調味料ですよ」。

 今回は、北田料理長が湯浅醤油・丸新本家の商品を用いて、その特性をいかした5品を披露してくれた。北田料理長が地元産(泉佐野産)の野菜や和歌山の魚介類などにこだわるように、その素材の味を引き立てるには、いい調味料が不可欠だというのもよくわかった。だから「桃李」では、この取材一回切りで終わらずに、これらの料理を一般にも味わってもらえるように企画するのだろう。営業部・髙橋さんが「どんな形になるにせよ、4~5月は楽しみにしていてください」というように味わって楽しめる「名料理、かく語りき」になりそうだ。

 

 

  • <取材協力>
    中華料理「桃李」

    住所/大阪府泉佐野市泉州空港北1 ホテル日航関西空港2階

    TEL/072-455-1120(レストラン予約は9:00~17:30の間で)

    営業時間/昼11:30~14:00LO、夜17:30~20:30LO


    休み/無休

    メニューor料金/
    国産フカヒレの姿煮込み(60g)6300円
    海老のマヨネーズ炒め煮 4730円
    海老のリソース炒め煮 4530円
    海の幸入り五目野菜炒め煮 2950円
    牛肉と彩り国産野菜の細切り炒め 4580円
    酢豚 2950円
    コース 鳳凰 12500円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい