111 2022年12月 街には、それぞれ色がある。そして飲食店も同じ。街と、そこに行き交う人によって育まれ、特徴づけられる。阪急高槻市駅近くにある「創作ダイニングTAKÉ」は、地域でも親しまれている創作ダイニングだ。一皿ごとにボリュームがあり、満足感の出る内容は、店主・竹田卓生さんの考えもあるだろうが、高槻という北摂随一のベッドタウンならではの嗜好もあるからそうなるのだろう。「創作ダイニングTAKÉ」は、基本はフレンチ。だが、竹田シェフの考えもあってか、メニューに「スンドゥブ」があったり、「エビとアサリの和風だし」があったりもしてとてもユニークなラインナップで、顧客を迎えてくれる。何を隠そう、オーナーシェフの竹田さんは、本場フランスのホテルで勤めたり、「東京ステーションホテル」「ホテルオークラ神戸」と名門ばかりを歩いて来た経歴を持つ。そんな職歴を持ちながらも気取らずに、自由な発想で料理づくりをしているのがいいのだ。今回は、高槻で評判を取る街場のビストロにて、湯浅醤油・丸新本家の和商材を使ってフレンチを作ってもらった。どのメニューも特別ではなく、調味料は異なれど普段からあるらしいのでもし気になったら食べに行くといい。

創作ダイニングTAKÉ 竹田卓生
(「創作ダイニングTAKÉ」オーナーシェフ)
「赤だし味噌は、ソースと合わせる
と柔らかい味になっていいですね。
フレンチといえど、赤味噌を使う
ことがしばしばあって、それが
入っている方が日本人には親しみ
のある味に映るんですよ。」

高槻という街に根ざしたフレンチ風ビストロ

 

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コロナ禍を経て仕事がリモート化し、郊外にビジネスマンが拠点を持つ時代になった。そんな影響もあってか、都心の繁華街より郊外都市に活気がみなぎっているように思えてならない。秋の某日に阪急高槻市駅付近を歩いてみると、人が一杯。平日の昼間になぜこれだけ人が歩いているのだろうと驚いた。北摂に住む友人に話を振ると、コロナ禍でそうなったのではなく、以前から阪急高槻市駅周辺は賑わっていたのだとか。大阪と京都の中間にあってどちらに行くにも便利なので住みやすいのだろう。だからこの賑わいになっていると思われる。今回訪れる「創作ダイニングTAKÉ」は、阪急高槻市駅から歩いて3分ぐらい。JR京都線高槻駅からも徒歩5分ぐらいなので駅近の便利な店といえよう。7年前に竹田卓生さんがこの地で始めた店で、街になじんだ雰囲気を持つビストロだ。そもそも竹田さんを知ったのは、このコーナーで度々登場する藤本直久さん(「北新地 西洋料理店ふじもと」の店主)の紹介。彼の「ホテルオークラ神戸」時代の先輩で、高槻でフレンチ(創作ダイニング)をやっている人がいると、よく噂を聞いていた。そこで思い切ってこの取材を頼もうと藤本さんに教えてもらったのである。

竹田卓生さんは、九州生まれだが、京都育ちだそう。中学生の頃は門真に住んでいたこともあるらしい。高校を卒業後、料理人を志し、上京して「東京ステーションホテル」で勤めた。「東京ステーションホテル」といえば、東京駅構内にあり、100年以上前に創業した。丸の内口に国内外の賓客を迎えるホテルとして大正4年に開かれたのだ。川端康成が1ヵ月ほど逗留し、「女であること」を執筆したり、江戸川乱歩は「怪人二十面相」でこの客室を舞台とした話を描いている。最も有名なのは、松本清張の「点と線」。彼は時刻表を使ったトリックを同小説で書いているが、これとて度々逗留し、客室よりプラットフォームを見下ろしたからの発想と伝えられている。そんな名門ホテルで竹田さんは7年間修業をし、青山にあった洋館の会員制仏料理店「ハウス・オブ・ザ・1999」へ移っている。その後、25歳で渡仏。ベルギーの二ツ星「グランバシドール」で働いた後、ロワール川のほとり(フランス)にある「ツールシ」(シャトーを使ったホテル)を紹介してもらい、都合5年ほどフランスにいたそうだ。帰国後は「ホテルオークラ神戸」のオープニングスタッフとして35階にあったフレンチ「エメラルド」で調理を行っている。当時の「ホテルオークラ」といえば巨匠・小野正吉シェフ(ホテルオークラ東京・初代料理長)が健在していた時代。鳴り物入りで神戸にオープンしたので、現場はかなり忙しかったと思われる。「小野正吉さんといえば雲の上の人的な存在で、上の人達が一緒にやっていたぐらい」と言いながらも竹田さんもイベントでは下働きとして仕事した経験があるという。「毎年何らかのイベントがあって、時にアラン・デュカスを招いて行ったり、彼の料理をコピーしてメニュー化したり、そこに通常のレストランの調理も合わせると、それは毎日が戦争のような状態でしたね」と竹田さんは振り返る。「地下に社員食堂があって食事に行くのですが、レストランスタッフは食べる時間も似通っており、なかなかエレベーターがやって来ず、昼食を断念する日もしばしばでした」。そんなに多忙なホテル時代だが、竹田さんは「楽しかった」と話していた。この頃の料理が少なくとも竹田さんに影響を及ぼしている。今でも「創作ダイニングTAKÉ」で出される「フォアグラといちじくのテリーヌ」は、当時のイベントでの料理だという。

オ カ キ

同ホテルを辞して竹田さんは、一旦茨木で独立。10年ほど営業したのだが、茨木ではなかなか商売にならないと悟り、7年前に高槻で店を再開した。それが今の「創作ダイニングTAKÉ」なのだ。「高槻は人も多く、商売が成り立つ地。意外にも地域のコミュニティが強く、レストラン同士は敵ではなく、仲間なんです。だから周年パーティを催しても他店から手伝いに来てくれるんですよ。同じような顧客が店を巡っている感じで、他店でうちの常連客に合うこともしばしば。一緒に盛り上がったりもします」。コロナの影響は今も引きずっているそうだが、店同士のコミュニティも強く、コロナ禍関連での情報共有もある。竹田さんは「高槻に来てよかった」としみじみ語っていた。竹田さんの店は、「創作ダイニングTAKÉ」と肩書が付く。基本はフレンチに置くものの、パスタも出せば、締めに「スンドゥブ」なんて日もある。出身が一緒なせいか、殊フレンチに関しては藤本直久さんとの料理傾向が似ているような感じがする。オーソドックスさを良しとして基本に忠実なのだ。「流行の、泡を付けた料理が嫌いで、焦がしバターなどクラシカルな料理を今もやっています」と言う。最近、右を見ても左を見てもインスタ映えを狙った料理ばかりで、基本の〝キ″すら感じぬものが多い。それらの多くはオーソドックスさを飛び越えているのではなく、基本がわかっていないのが多い。「泡を喰って何が旨い!」と私も言いたくなる。そういった意味では、「創作ダイニングTAKÉ」の本格仕様は、グルメに刺さる。「大きな皿に、ちょっとだけというのも嫌いなんですよ」と竹田さん。なのでこの店の一皿一皿はボリュームがある。「端にソースがちょろっというのもどうかと思います。その手のものはきれいですが、食べる側としては何となく物足りないんですよね」。時に美味しいものを作ろうと思うと、無理をしなければならない。原価率をオーバーさせることだってあるそうだ。これがホテルやチェーン店ではなく、オーナー店の成せる技かもしれない。

フレンチに和の調味料がうまく融合

 

クケ

さて、竹田さんの店でも湯浅醤油・丸新本家の商品を予め送っておき、いつもアレを行おうとしている。まず一品目だが、「創作ダイニングTAKÉ」の名物メニューにもなっている「シェフの気まぐれ前菜盛り合わせ」をアレンジしたものだ。ここではサラダのドレッシングに「魯山人」醤油や「もろみ味噌」を用いている。今回は、ビーツ、紅芯大根、赤蕪、コリンキー、はやとうり、オクラ、水茄子、ミニトマト、蓮根、マイクロキュウリが載ってある。そこに「魯山人」醤油、「もろみ味噌」、オリーブ油、サラダ油、シェリービネガー、カレーパウダー、塩、コショウで作ったドレッシングがかかっているのだ。「ドレッシングには、普段から醤油を使っているんですよ」と竹田さん。今回は、それを「魯山人」に替えた。「魯山人醬油は、上品でエレガントな味。普段使用しているものからコレに替えるだけでコクが出て、味自体も上品になりました」と説明してくれた。そこに隠し味としてカレーパウダーを少し入れたそう。「ひょっとしたら『魯山人』の良さがそれでかき消されてしまったかもしれません」と笑いながら話していたが、それだけこの醤油が繊細な風味を持つ証拠でもある。竹田さんによると、普段は「もろみ味噌」は入れていないらしく、これとて今回の特別仕様しとして加えたもの。単体なら強(きつ)いが、ドレッシングならいいだろうと用いたそうだが、使ってみると「味にメリハリができ、いい味に落ち着いた」という。もろみが入ったことでインパクトが出たようだ。写真でもわかるように、サラダ+前菜のこの一皿は、かなりボリューミーである。「創作ダイニングTAKÉ」では、野菜にもこだわりがあって、多くのものを岡山産の新鮮野菜にしているそう。近所に岡山からの産直販売所があり、竹田さんによると「面白い野菜が来るので重宝している」らしい。価格も安く、新鮮なのが利点で、すぐ近いから買いに行って使っているという。「パプリカもいいのが入ったので今日のメニューに使っています。輸入ものだと厚いのですが、国産は薄くて使いやすいですよ」と岡山の野菜を誉めていた。

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二品目は、「鴨のロースト」。そこに「赤だし」味噌と「白搾り」を使った赤味噌ソースがかかっている。付け合わせには、先程の岡山産の赤と黄のパプリカ。そして珍しい四角豆が添えられていた。四角豆は、草木になる実鞘で、断面にヒダが付いている。断面が羽のように見えるからか、英語ではウィングビーンズと呼ぶそうだ。日本では、その名の通り、四角豆といい、沖縄ではうりずん豆とも呼ぶ。炒めたり、天ぷらにしたりすることが多いようで、茹でたものをサラダに使ったりもする。豆と言っているが、豆はほとんど見えず、鞘を食べる感じに。竹田さん曰く「鞘には小さな豆が入っているんです。あまり茹ですぎるとダメで、コリコリした食感をいかすように調理しています」とのことであった。肝心の「鴨のロースト」は、塩コショウをし、にんにくを摺り込んでカイエンペッパーを少ししてから焼いている。そこに「赤だし」味噌と砂糖、みりん、ごま油、にんにくのすりおろし、ワイン、「白搾り」で作った赤味噌ソースがかかっているわけだが、竹田さんはこの料理を「フレンチから逸脱しているが、日本人ウケしていい」と評している。味噌は日本人にとってなじみのあるものなので、この手のソースは我々には受け入れやすいのだ。食べると味噌の香りが利いていい。「創作ダイニングTAKÉ」では、この料理もグランドメニューに載っている。「鴨のロースト赤味噌風味」がそれで、1380円で提供されている。「赤だしは、コクがあっていいですね。単体だと辛いような感じがしますが、ソースにすると、柔らかな味になるので使い易いですよ」と話していた。一方、「白搾り」は、竹田さんが試したくてあえて用いたようだ。「ソースには『赤だし』と赤ワインが入っているので、そこまで食べた方はわからないかもしれない」と言っていた。

サ シ ス

三品目は、「ブールノワゼット」。ここには「魯山人」醤油が使われている。鱈の白子と海老を塩コショウして粉を振って中火でこんがり焼き揚げたもの。下に水菜を敷いてそれを載せ、アスパラを添えている。「創作ダイニングTAKÉ」では、アワビでやることが多いらしいが、今回は鱈の白子で。柔らかい分、シャキシャキ感を出すために水菜を用いたようだ。ブールノワゼットとは、焦がしバターのソースを指す。仏語でブールはバターの意。ノワゼットはヘーゼルナッツで、このソースの色とヘーゼルナッツの色が似ているからそう呼ぶようになった。塩を入れてバターを焦がし、焦げる前にシェリービネガーを入れて飛ばす。トマト、ケッパー、エシャロットのみじん切りに、隠し味として「魯山人」を数滴入れて仕上げている。「辛みが少ないから塩味を持たせるために醤油(魯山人)を使いました。こうすることでバターのソースが締まるんですよ」と説明していた。ちなみにブールノアゼットは、トマトコンカッセ、ケッパー、「魯山人」醤油、エシャロット、細ネギで作り、最後にシェリービネガーをプラスする。このクラシカルなソースが利いて極上の一皿に仕上がっているようだ。
三皿ともボリュームがあるのだが、これが「創作ダイニングTAKÉ」の特徴ともいえる。「梅田や北新地のような繁華街ではないのだから、このくらいサービスしなくてはやっていけない」との本音がちらり。時にはやりすぎて、原価率をかなりオーバーするそうだが、これもまた「創作ダイニングTAKÉ」らしいといえば、そう言えるかもしれない。海外や有名ホテルの経験値がプラスされ、「創作ダイニングTAKÉ」の味は完成されている。そして地域コミュニティが確立された高槻の地が、もう一つの味わいとなっているのだろう。「創作ダイニングTAKÉ」の繁盛ぶりは、竹田さんの料理に、街の雰囲気が合致したものなのだ。

  • <取材協力>
    創作ダイニングTAKÉ

    住所/阪府高槻市北園町13-29  SAKURAビルⅡ1階 
    創作ダイニングTAKÉ

    TEL/072-685-7703

    営業時間/11:30~13:30LO
    17:30~21:00LO

    休み/火曜日

    メニューor料金/
    コース料理(要予約) 4700円~
    鴨のコンフィ 1600円
    牛ホホ肉の赤ワイン煮込み(二人前) 3500円
    アワビのステーキ 3300円
    豚角煮のオムレツ 900円
    エビとアサリの和風だし 1100円
    スンドゥブ風(エビ・キノコ・他) 900円
    パテドカンパーニュ 1000円
    佐賀牛のフィレステーキ 4300円
    本日のカルパッチョ 2000円~
    鮮魚のムニエル(おまかせソース) 2300円
    アサリのバター焼き(ケッパー風味) 4400円
    エスカルゴとタコの香草バター 1200円
    ウズラのロースト 2000円
    シェフの気まぐれ前菜盛り合わせ 2300円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい