43 2016年10月古くからの知人で「吉兆」創始者・湯木貞一さんの孫にあたる湯木尚二さんがいる。彼は常にエネルギッシュで、プラス志向。料理についても前向きで次々にオープンさせて店を運営している。そんな湯木尚二さんが北新地に三店舗目となる「湯木 永楽町店」をオープンさせた。聞けば、オール女性スタッフで運営しているという。女性の社会進出が叫ばれ、安倍内閣もそれを後押ししている昨今、まさに今風の店である。「湯木」ブランドの持つ高級感を保ちながら女性がてきぱき働く様を見て、今回はここを取り挙げようと決めた。今、北新地で話題の日本料理店でいつものアレ(・・)を行うことにしたのだ。

日本料理 湯木 永楽町店
竹井久美
(湯木 永楽町店調理担当)
「白搾りも白あえみそも初めに
なめた時は辛い気がしたので
すが、使うとそうではなく、加え
て行っても辛くなりません。添
加物を使っていないから舌に
残らないですし、使いやすい
と思います」

女性スタッフで運営する日本料理店

 

最近、テレビや雑誌などで湯木尚二さんを見ることが多い。日本料理の世界で“湯木”ブランドを立ち上げ、順調に行っているようで喜ばしい限りだ。今年になってから北新地で三店舗目になる「湯木 永楽町店」をオープン。本店の斜め前にはギフトショップ(Yuki gift shop―日本料理湯木―)を開いている。
湯木尚二さんは、その名からもわかるように「吉兆」の創設者・湯木貞一さんの孫にあたる。家系は長年「吉兆」ブランドでやって来ていたが、湯木尚二さんはそこから離れ、自身のブランドとして北新地に日本料理店「湯木」を立ち上げた。それに加えて肥後橋にも少しカジュアルな和食「ゆきや」を営んでいるのだ。
本店、新店に次ぐ「湯木 永楽町店」は、これまでのような会席主体ではなく、一品料理にも力を入れたいそうで、斬新にも店のスタッフは全て女性。17席と小ぶりながらも「湯木」の高級感は保ちつつ、てきぱきと女性が差配する様はまさに今風。日本料理の世界にも女性料理人が進出して来たことが窺える店舗である。湯木尚二さんは「型にはまらず、素材に重きを置きながらこの世界に新しい風を吹き込みたい」と語っており、今後の展開が楽しみになる。献立は今のところ湯木尚二さんが組んで、竹井久美さん以下厨房スタッフが作っているが、それでも一品料理などには彼女らの意見が反映されており、昼の人気メニューの一つ「ローストビーフ丼」は竹井さんの提案より実現したものらしい。「昼に丼物を出したい」との湯木尚二さんとの考えを受けて竹井さんがレシピを書き、それに添って調理しているのだ。まだまだ男導社会の影が差す日本料理界にあって、ここだけは女性の自由な働き場所になっている。女性の社会進出が顕著な現代にあって、これからはこんな店が増えるのだろうと思わせてくれる日本料理店なのだ。

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「湯木 永楽町店」の厨房で中心的存在として映るのが前出の竹井久美さん。宮崎県出身の女性で割烹着姿が様になっている。竹井さん自身は、日本料理の職人ではなく、家庭料理の延長として腕を磨いて来たそうだ。宮崎で職人の作ったものを扱うセレクトショップをやりながらプライベート商品を作っていた実績を持つ。砂ずり、軟骨、せせりの宮崎地鶏の炭火焼がそれで、今回使用したにんにくオリーブオイルも竹井さんのプライベート商品だ。
竹井さんは、二年前に九州から関西へと出て来た。芦屋に某店ができるのをきっかけにその厨房に入ったわけだ。ところが和洋中の料理人がいる厨房は男社会で、職人気質の漂う所。違った道を歩いて来た竹井さんには窮屈だったのだろう、長くは続かなかった。たまたまその店で知り合った湯木尚二さんが竹井さんの作るものを気に入り、「5月に新しい店ができるのでそこで働かないか」と誘ったのがきっかけ。竹井さんは九州へ帰る気でいたが、熱心に誘ってくれたのと、色々なことをやらせてもらえそうだったので「湯木」に行くことを決めたという。

 

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現在、「湯木 永楽町店」は、昼間に竹井さんが入り、夜は他の女性スタッフが行っている。人気メニューとなっている「ローストビーフ丼」(2000円)や「鯛茶漬け御膳」(1300円)、月替わりの「からだ想い薬膳ランチ」(1800円)、週替わりの「播磨喜水麺と小どんぶりのランチ」(1800円)などを昼間に出しており、加えて、ギフトショップで売っている稲荷寿司も竹井さんがレシピを書いて皆で作っている。この寿司は、熊本南関町の乾燥揚げを使用している。竹井さん曰く「南開揚げは味が凝縮して旨い」そう。ギフトショップでは毎日50食を北新地の手みやげとして販売するそうで、昼営業が終わってから皆で作るのだと話していた。「母親が料理教室をやっていた関係で、私も家庭料理の延長のような形で調理の世界に踏み入りました。この店は歴とした日本料理店なので私のようなものでも務まるのかと不安でしたが、女性同士力を出し合って“湯木”ブランドに恥ぬように頑張っています」と話している。現在、「湯木 永楽町店」では、懐石料理が三種。それに鱧すき鍋や鱧しゃぶしゃぶ、黒毛A5すき焼きに同様のしゃぶしゃぶ、河内鴨すき鍋、紀州うめ鶏水炊きなどの鍋コースが入る形でメニュー構成している。湯木尚二さんが「まだ新しい店なので知名度を上げるのが使命。一品料理も充実させていく予定」と言っており、全ては女性スタッフの働きぶりにかかっている。本店や新店と異なる魅力が打ち出せれば成功するに違いない。

自慢のだしに良質の調味料が出合った

 

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さて、今回もこの店に湯浅醤油(丸新本家)の商品を送っておき、私だけのスペシャリテを作ってもらっている。「3品ぐらいで」とお願いしていたのにサービス精神旺盛な湯木尚二さんは、8品も考えていてくれた。
まず出て来たのは、南瓜のスープ。カボチャを蒸して裏漉し、甘酒、豆乳、「白あえみそ」で作る。「白あえみそ」は、甘いが優しい味わい。添加物を使っていないから使いやすいと竹井さんが評価していた。ただ、この手のスープを作る時に甘めになってしまうので柔げる意味合いで最後にほんの少し「白搾り」を加えている。飲んでみると、カボチャの甘みがうまく出ており、白味噌を使っているのがわかる。「白あえみそ」で甘さが勝つところをうまく醤油(白搾り)で抑えているのだ。

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吸物系で面白かったのは、途中に出て来た「湯葉と手鞠麩の吸物。竹井さんによると、「湯木」のだしに「柚子梅つゆ」を加えたそうだが、一見普通の吸物のように口に入れると、意外な感じで「柚子梅つゆ」の味が広がっていく。「一般的には素麺やうどんの漬けだしに用いるのかもしれませんが、吸物の邪魔にならないと思ったので加えました」の返答には納得がいく。竹井さんは、ここでも味を締める意味で「白搾り」を使っている。

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高野豆腐と椎茸の焚き合わせは、和食の定番。「湯木」のだしに砂糖、みりん、酒、「白搾り」を入れて具材を煮ている。焚き合わせなので別々の鍋で煮て合わせているのだろうが、竹井さんは食べやすいように「甘めに仕上げた」と言っていた。それでも高野豆腐は味が染みやすく、濃くなるとつらいので薄めにして「白搾り」で味を調整したらしい。「白搾りも初めになめた時にちょっと辛いかと思ったんですが、使っていくとそうではなく、加えても味が辛くなることはありません。薄口醤油は入れすぎると辛くなる嫌いがありますが、これはそうではなく、味を調えやすい。それに白醤油なので素材の色も保てますしね」。

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絹こし豆腐と湯葉あんかけの揚げ出しでもこの「白搾り」が活躍している。これは絹こし豆腐を揚げてタレをかけたものであるが、だしに「白搾り」を入れて作っている。葛粉であん(みりん、「白搾り」、酒、塩、隠し味程度の砂糖)を作って豆腐にかけているのだ。湯葉を加えると味が薄めになるのであんは濃いめに、そして最終的にもう一度味を調える。「白搾りは二回使いましたが、味が濃くならないので調整しやすかった」とは竹井さんの使った感想。こんな点にも商品特性が見え隠れしている。

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湯木尚二さんが今後力を入れたいと語るのが佐土原茄子。この茄子は宮崎・佐土原で穫れるもの。皮が硬めでパリッとした仕上がり、それに反して中は柔らかい。竹井さんは、今回これを田楽にした。素揚げした茄子に「黒豆みそ」と「白あえみそ」を田楽味噌にして塗っている。「黒豆みそは粒々が残っていて逆にそれが面白くて使いました。これはいい食感になりますよ。私も多くの調味料を使って来ましたが、この手の味噌はあまり出合わなかったですね」。佐土原茄子は、外と中の食感の違いが面白く、味もいい。湯木尚二さんが惚れ込むのもわかる。

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竹井さんが作ったイベリコ豚の肉じゃがも印象に残った。イベリコ豚は肉質が硬いので圧力鍋で調理する。柔らかくなったらジャガイモ、玉ネギ、人参、しらたきを加えて調理していく。竹井さんによると、この時のジャガイモはメイクイーンがいいそうだ。しらたきは串木野(鹿児島)の「三愛」の生コンニャクが_。これはコンニャク芋の含有が多く、歯応えがいい。具材が仕上がったら先のイベリコ豚を加えて調味する。用いるのは「生一本黒豆」にみりん、酒、それに竹井さんのオリジナル商品・にんにくオリーブオイル。竹井さんの説明では、イベリコ豚はにんにくと合うそう。肉自体は硬いが、脂に甘みがあっていい。そこににんにくオリーブオイルを加えることで味に深みが増すらしい。

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この他、竹井さんは小芋の味噌煮とサンマ甘露煮を作ってくれたが、前者には「白あえみそ」と「白搾り」が、後者には「生一本黒豆」が使われていた。竹井さんは今回使用した醤油や味噌をかなり気に入っており、「できれば今後も使っていきたい」と話していた。さらにこの感動を伝えたかったのだろう、福岡に住む娘さんに「こんないい調味料を見つけたの」と電話を入れている。私は「吉兆」時代から湯木尚二さんの料理を食べており、「湯木」や「ゆきや」にもちょくちょく行く。いつも感心するのはだしの旨さで、このだしはどのようにして作るのだろうといつも思ってしまう。今回の取材は、そんな旨い「湯木」のだしに湯浅醤油(丸新本家)の調味料が出合ったもの。味に納得できないはずはないのだ。
実は、私が座長を務める関西食ビジネス研究会では、今夏の暑気払いに「湯木 永楽町店」を使った。17席と貸切るのに丁度よく、店もきれいで、料理も高評価だったからだ。食通が集う同団体で「リピートしたい」との声が聞かれたほどだからなかなかのものである。湯木尚二さんは色んな企画を考えている。佐土原茄子を使ったイベントもやりたいと言っていた。そうして考えると、目が離せない気がする。今後も「湯木 永楽町店」を注目していきたいものだ。

 

  • <取材協力>
    日本料理 湯木 永楽町店


    住所/大阪市北区曽根崎新地1-7-21 エスパス北新地8 1階

    TEL/06-6454-3111

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    営業時間/営業時間/11:30~14:30(13:30 LO)、17:30~22:00(21:00LO)

    休み/日祝日

    メニューor料金/
    メニュー/昼:ローストビーフ丼    2000円
           からだ想いの薬膳ランチ 1800円
           鯛茶漬け御膳      1300円
           播磨喜水と小どんぶりのランチ 1800円
          
           夜:懐石料理   ミニ 6000円
                〃     舞  8000円
                〃     彩  12000円
             季節の鍋コース(要予約) 8000円~
             カウンターお座敷天ぷらコース
              (要予約)10000円~


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい