77 2019年08月三田で福助グループといえば、地元を中心に飲食店を運営するところとの認識が強い。その店舗数は、約20軒に及び、居酒屋を中心に和食店や焼肉店、ラーメン店などバラエティに富んでいる。そんなグループの中でも「三福」は中核的存在で、JR三田駅前にあることから立地条件も抜群な和食店だ。今回は、会社帰りの食事や接待などに利用されることが多い三田駅前の「三福」に湯浅醤油と丸新本家の商品をあらかじめ送っておき、それらを用いた特別料理を作ってもらった。調理を担当したのは、福助グループでマネージャーを務める中谷世志樹さん。マネージャーといっても和食の料理人で、かつては有名料亭で働いていたこともある。今回は、「三福」の個性が表現できるようにと、魚・肉・野菜の各々に湯浅醤油・丸新本家の商品を使って挑戦すると意気込んでくれた。さて、「三福」の中谷さんは、いかなる料理でこれら調味料の特性を引き出してくれたのであろうか。とくとご覧あれ。
旨い魚と旬の肴 三福 中谷世志樹
(福助グループマネージャー)
「蔵匠樽仕込みは、豆の味がよく出
た醤油で、味に厚みがあります。
豆の風味を持つせいか、甘みも感
じ取れますし、香ばしさもありま
す。これを用いると、醤油の持つ
風味で食べる一品ができあがります」
旨みが乗ってから造りにするこだわりよう
JR三田駅前にある「三福」は、三田周辺の人達が集う和食店。今年の初めからは、魚を中心に置いて食材を充実させており、玄関を入った所には枡に魚の字を書いてそのイメージを強めているし、昼網で獲れたものを水槽に泳がせたりもしている。以前「三福」には、和食と中華の料理人がいた。なので和食あり、中華ありの店だったのだが、中華を担当していた人が辞めたのでコンセプトを和一本に絞り、しかも魚を中心とした料理へと変更したのである。料理人でもあり、同店を含む福助グループのマネージャーを務める中谷世志樹さんは、「天然のもので、漁場から直送してもらいながら生簀で泳がせています」とセールスポイントを説明する。泳がせているのは旬の魚で、平目や鰈、オコゼ、皮ハギ、アコウなど。アワビやサザエ、伊勢海老といった魚介類も見られる。ただ、泳がせているのを捌いてすぐに造りで出すのかといえば、そうではない。その場で締めた魚は、コリコリとした食感はあるものの、本当の旨みは弱い。実は締めてから8~12時間ぐらいした方がアミノ酸が増えて旨みがアップするのだ。中谷さんは、その理論を用いて造りを出している。なので「三福」の造りは、揚げてすぐではなく、計算された上で素材を選んでいるのだという。では、活けのものを締めてすぐには使わないのかといえばさにあらず。焼き魚や煮付けにはむしろその方がいいらしい。関西でいういかっている状態なら、身ははぜるから活け締めは調理して使う。一般的な料理屋と異なるのは、全て"旨い"の論理からの計算なのだ。
では「三福」は魚オンリーかと思われがちだが、そうではなく、地の野菜や丹波地鶏、一昨年ブランド化された三田牛の「廻」も使っている。造り、寿司、天ぷら、焼鳥、三田牛と何でも揃っているので来店客は好きなものを注文し、自分なりのコースに仕上げることが多い。中谷さんも「造りから始まり、サラダ類、焼鳥かもしくは焼魚、そして天ぷらを頼み、牛肉を少し食べて食事で締める_、そんな向きが多いようですね」と話していた。5月からは鱧も登場し、魚介類もさらに華やかになっている。海に面さない三田で、これだけ魚類が豊富なのは嬉しい限り。だから会社帰りの人が集まったり、接待に使ったりしているのだろう。駅はすぐそばなのでぎりぎりまでねばれる、そんな立地条件も味方して人気店になっているようだ。
「樽仕込み」のよさが出た品々
さて、私めは「三福」でいつものアレをしようとしている。今回味わった四品は、取材と称して食べた私だけのスペシャリテなので当然日常メニューにはないことをご理解願いたい。最初に出て来たのは、鰻の白焼き。「三福」では、5月から国産の天然鰻を仕入れている。三田に鰻の仲買い人がて、そことのルートができたために同店でメニュー化することになった。鰻は生から焼いて水で洗い、仕上げに「蔵匠 樽仕込み」を一回だけ塗ってさらに焼いている。つまり蒸してから焼く関東式ではなく、関西風の技法で作っているのだ。「白醤油なら表裏とも塗るんですが、これは濃口醤油なので深い色合をつけたくないために皮目(裏)に一回だけ。でもしっかりした醤油なのでこれで十分味がつくんですよ」。中谷さんは、「樽仕込み」を用いることで鰻の味に幅が出ると評していた。一回だけ塗ることで皮目をパリッとさせ、強くない醤油味で鰻(素材)の味を引き立てる。そんな思いで調理したそうだ。
二品目は、にぎり寿司三種。使っている魚はマグロ、平目、鯛。マグロには「樽仕込み」の醤油ジュレを、平目には「ゆずぽん酢」のジュレ、そして鯛には「具だくさん金山寺味噌」を施している。中谷さんによると、醤油ジュレとぽん酢ジュレはすんなり決まったそう。残るは金山寺味噌をいかに使うか。「具だくさん金山寺味噌」があまりにも完成しすぎているためにあれこれさわると、味のバランスが崩れてしまいそうで悩んだという。「初めは牛肉にと思っていたのですが、金山寺味噌自体が甘めなので肉だとバランスが崩れそうな気がしてやめました。やはり淡泊な魚が合うと思い、鯛に載せたんです」。鰈だと淡泊すぎて魚の味がわからない。鯛なら多少脂もあるので金山寺味噌を載せても堪えられると踏んだのだろう。
マグロにかけた醤油ジュレは、ゼラチンで固めて作る。ジュレを寒天で作る所もあるが、それだと口溶けが悪く、口内に残りそうだ。ここでは、ツルンとした感じを出したくてゼラチンで作っている。これだと口内の温度で溶けるために後口が悪くならない。「醤油ジュレもぽん酢ジュレもイメージ通りにできました。流石に醤油メーカーが造るぽん酢なので醤油感が強いですね。ぽん酢メーカーは、どうしても柑橘が強い嫌いがあるのですが、ゆずぽん酢はそうではありません。だから醤油風味がいきて来るんですよ」と中谷さんは説明していた。
三品目は、「赤みそ」を用いた夏野菜のグラタン。「赤みそ」2にデミグラスソース3の割合いで合わせて挽き肉を加えミートソースぽく作っている。中谷さんにいわせるとこの割合いが大事だそうで、「赤みそ」をそれ以上増やすと、味噌が勝って田楽のようになってしまうという。野菜は全て地のもの(三田産)で、トマト、オクラ、アスパラガス、ズッキーニ、ヤングコーンが入っていた。「油通しした野菜を鉄板に載せてソースをかけます。とろけるチーズと粉チーズを上に載せてオーブンで熱しています。この『赤みそ』は、味がシャープで、変な甘さがない。濃い味なので少量で十分調味できるのです」。一般的な赤みそだと色んな調味料(添加物)が入っているからこうはうまく作ることができないようだ。丸新本家の「赤みそ」は、雑味がないが、シャープな分だけここでは入れすぎると田楽ぽくなってしまう。そこを注意して作ったと中谷さんは話していた。
最後のすき焼きは、「樽仕込み」の特性がいかされた一品だった。用いたのは三田牛「廻」。A4の7以上クラスの高級牛肉である。「樽仕込み」に砂糖少しと酒を加えて割下を作る。鍋にその割下を敷いて三田牛を加えながら焼きすきにする。中谷さんによれば、三田牛は融解温度が低いので割下に浸すようにしてしまうと脂が溶けてしまうらしい。さっと炙るようにして卵に漬けて食す_、これで十分美味しい。「一般的な赤身肉だと関西風のように醤油をかけて焼くのですが、三田牛をそうすると素材の良さが損なわれてしまいます。一般の醤油は辛いだけなのでかなり砂糖を使いますが、『樽仕込み』なら砂糖も少量で十分。醤油自体が風味豊かなので甘みを感じます」。中谷さん曰く「樽仕込み」を用いると、醤油の持つ風味で食べるすき焼きになるらしい。「樽仕込みは、豆の味がうまく伝わって来る醤油。だから甘くも感じますし、香ばしさもある。辛くはないが、濃いと表現する方がいいのかもしれません。味に厚みがあるんですよ」。中谷さんのこの表現が今回のすき焼きを上手く物語るっているように思われる。
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<取材協力>
旨い魚と旬の肴 三福
住所/三田市駅前町8-39-101
TEL/079-559-0124
HP/ Instagramはこちら
営業時間/11:30~14:00LO 17:30~23:00
休み/火曜日
メニューor料金/
刺盛(5種) 1200円
刺盛(7種) 1500円
うなぎ白焼き 1980円
うなぎかば焼き 1980円
うなぎうまき 820円
牛トロ炙りにぎり(1貫) 680円
活サザエ 580円
活あわび 1480円
三田牛廻炙り 1780円
明石ダコブツ切り 850円
天ぷら 海老 280円
天ぷら あなご 480円
天ぷら 三田アンパラ 250円
丹波地どりもも一枚焼 1780円
漁師のお茶漬 880円
筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。