76 2019年07月南海難波駅の隣りに商業施設・なんばスカイオがお目見得したのは昨秋のこと。その時に5階フロアに個性的なフードホール「ITADAKIMASU FINE FOOD(イタダキマスファインフード)」もオープンしている。フードコートは誰もが知っているが、フードホールとはまだまだ聞き慣れぬフレーズかもしれない。少し個性のある店、こだわりのある店が集ったものと理解してもらえばいいし、フードコートの進化版やアップスタイルと思うとわかりやすいかもしれない。今回は、そんな話題のフードホールにお邪魔して、湯浅醤油や丸新本家の商品を使って試作してもらった。「ITADAKIMASU FINE FOOD」の中でも"旅食"をテーマにした「Double Doors Kitchen」がチャレンジしたこの二品を紹介したい。
ITADAKIMASU FINE FOOD 中島大介
(ITADAKIMASU FINE FOOD オーナー)
「黒豆みそとは、珍しいもので、
使うのは初めて。少し酸味を
感じ、クセがあるのかなと思
いましたが、使ってみたらそ
れも杞憂に終わりました。使
い易くて、料理は思った以上
に美味しく仕上がりましたよ」
旅食、肉、魚、酒と各分野のスペシャリストを集めた
都心型フードホールが各地にお目見得して話題を呼んでいる。阪急三番街しかり、神戸マルイしかり、阪神百貨店しかりという具合にである。フードホールとは、色んな店が集い、共有スペースで食事を楽しめる施設を指す。今まではフードコートと呼んでいたのだが、ファストフードの中心のそれとは異なり、その進化版といえる形を称してフードホールと呼んでいるようだ。南海難波駅直結のビル「なんばスカイオ」5階にできた「ITADAKIMASU FINE FOOD」もその手の施設。大阪でタリーズコーヒーなどを展開する中島大介さんが企画したものである。中島さんは、自身の会社「コンディ」を営みながら二年間大阪市大の大学院・アントンプレナーシップコースで学んだ。そこで事業計画書を卒論代わりに提出するのだが、テーマを新業態フードコートの開発にしたのだという。それがきっかけでフードコートを起業し、紆余曲折を経て具現化したのが「ITADAKIMASU FINE FOOD」だった。
中島さんは、このフードホールを企画した際に個性的な四つの店を募った。そのラインナップが大阪中央卸売市場で仲卸しを行う「利州」であり、苦楽園で牧草牛の赤身肉を出して人気を呼んでいた。「GOOD GOOD MEAT」であり、九条の老舗酒店「マルホ商店」であったりである。今回取材を受け入れてくれた「Double Doors Kitchen」もその一つ、ここは旅と食をテーマにして地方の食材や特産品、料理を紹介する店になっている。野菜ソムリエと旅食の達人が、能登や宮崎、新潟といった地方の素材や特産品を選んで提供する。例えば、能登・輪島ふぐの一夜干しを使ったものがあったり、宮崎の妻地鶏の料理があったり、新潟・栃尾の油揚げがあったりという具合だ。これらは、以前関空で物流の仕事に従事していた高橋さんなる中島さんのブレーンが引っ張って来たものが中心。同所では地方のフェアを時折り行っていて、その時のものが常時ラインナップされるようになっている。つまり大阪にいながらにして地方の名品に出合えるいい機会というわけだ。先日「妻地鶏の炭火焼」(680円)を食べさせてもらったが、なかなかのレベル。その辺りの焼鳥屋で食べるものより数段よかった。聞けば、宮崎のもので、ストレスフリーの飼育環境で育てられているそう。一本ずつ炭火で焼き、レア状態で出される。焼いてはいるが、中がレア状態なので鶏のタタキのような味わい。かといってコリコリと歯応えもある。「Double Doors Kitchen」では、宮崎のものとしては「原木しいたけたっぷり!なば餃子」(600円)も提供している。南郷町岡田商店の干し椎茸を鶏手羽先に詰めたもので、食すと手羽と椎茸のだしが合わさり、いいハーモニーを奏でるかのよう。椎茸のことを地元では「なば」というらしくこのメニュー名になっているのだが、実はこの商品は宮崎ご当地グルメコンテストでグランプリに輝いたのだ。レベルが高いのも納得できる。
ちなみにこのフードホールに出店している「マルホ商店」は、クラフトビールで有名な酒屋。この出店にあたり造ったクラフトビール「ミックスジュースセゾン」は、同酒店と山梨のブルワリー・ファーイーストとのコラボから生まれたオリジナルビールである。「利州」が出した「WADASTUMI」は、中央卸売市場の利点をいかして鮮度のいいネタで勝負している。寿司や海鮮丼が売りで、中でも、「ワダツミの海鮮丼(上)」は、13種もの魚介類が載った豪華なものである。「GOOD GOOD MEAT」では、牧草を食べて育った阿蘇のあか牛の部位を販売している。小売り代金に1000円(1ポーション毎)足すと、調理してくれてその場で味わえる。このように十人十色というか、色んな個性が集ってフードホールは形成される。そんな中でいつものアレをやってみたいと思って中島さんに「名料理、かく語りき」の取材を願い出た。中島さんは、食旅をテーマにした「Double Doors Kitchen」を取材場所に定め、湯浅醤油や丸新本家の品でテストを行ってくれたのだ。
初めて使える調味料だが、思った以上の味に
さて肝心の料理取材だが、色々な商品を送った中で「Double Doors Kitchen」の料理人・山本敬隆さんが料理特性を見ながら選んだのは、「柚子梅つゆ」と「黒豆みそ」であった。この日はいつもと違って取材用に二品を私達に出してくれたのだ(当然、取材用のスペシャリテなので通常のメニューにはない)。
山本さんが「食欲の落ちる夏にさっぱりした味のものになれば」と考案したのが「夏野菜のお浸し」である。山本さんは、「柚子梅つゆ」を「梅のさっぱりした感じが出ていて、柚子も入っているので風味がいい」と評していたが、その良さを出すには夏野菜が適切だったと思われる。瓶だけを見た時、使い方を模索したらしいが、「イメージ以上によくできた」と自賛していた。野菜の旨みを消さずにできればと考え、「柚子梅つゆ」とかつおだしを半々で割ったものの中に一晩漬けて作ったそう。物によっては、一晩でもきついものもあるが、総じてそれくらい浸しておけば程よく染み込むのだという。茄子はアク抜きし、みょうがは半分に切ってトマトは湯むきしてそのだしに浸す。みょうが以外は一旦ボイルしてから浸したようである。「ゆで加減に左右される料理で、トマト以外はしっかりゆでています。逆にトマトは、20秒ぐらいで十分ではないでしょうか」と山本さんは下処理方法を教えてくれた。ちなみに「Double Doors Kitchen」では無農薬にこだわっており、この日作ったのもトマトは京都から、米茄子は高知から、葉物(軟弱)野菜は山形や京丹後から取り寄せている。
もう一品の「米茄子の田楽」は、丸新本家の「黒豆みそ」を用いた料理だ。米茄子を蒸してフライパンで焦げめをつける。「黒豆みそ」を砂糖、みりん、酒を合わせて作った田楽味噌をその上に塗って上からバーナーで味噌に焦げめを入れていく。最後はゴマを振り、アクセントに生姜と刻み大葉を加えて出来上がる。「色んな味噌がありますが、私の経験上では『黒豆みそ』というのは初めて。一般的な味噌より酸味があると思いました。料理はファーストインプレッションで決まり、この珍しい味噌で田楽味噌を作って味見すると、美味しかったので茄子田楽にしようと考えたんです」と山本さん。でも使用するのは長茄子ではないと思ったそう。長茄子だと繊維質で味が染みにくいというのが理由らしい。その点、米茄子は、油で炒めると味噌との相性もよく、味も入りやすい利点があった。
新古さんに聞くと、黒豆はその性質上、皮が黒く、中味は白い。それで味噌を造ると、黒と白が混ざり合い、灰色のものができるそう。灰色は、あまり美味しそうではないが、熟成していくと、今のような黒っぽい色に変化していく。「黒豆みそ」は、一年半寝かして商品化する。味噌メーカーでも黒豆味噌を造っている所は少なく、その理由として挙げられるのが原材料の高さと、黒くなるまで時間がかかることではないだろうか。多分一年半も商品化を待てないのだろう。「ITADAKIMASU FINE FOOD」のオーナー・中島大介さんもこれらの二品について「期待していた以上の出来でした」と評価している。取材用に届いた「黒豆みそ」を舐めた時、酸味を感じたのでクセがあるのかと思ったようだが、使ってみたら思っていた以上に使い易いことが理解できたと話していた。今回は、このコーナーの取材で「柚子梅つゆ」や「黒豆みそ」に出合ったが、このように地方にはまだまだいいものが一杯隠されている。それを発掘して都会(難波)で披露していくのが「「Double Doors Kitchen」の役目なのだ。なので中島さんらは、行政とパイプを持ちながら各県の料理フェアをこのフードホールで催すことにしている。今年3月末には新潟県のイベントを行っているし、これまで能登・輪島もフェアを実施した。7月には青森県のフェアも控えており(本取材は6月に行っている)、JALとタイアップすることで朝採れたものが、夕方ここに並ぶことになるという。それなら地元で食すのとそんなに時差はない。旅食、牛肉、魚、酒と色んな個性が一同に会したこのフードホール、まだまだ新たな魅力が見つかりそうで面白い。
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<取材協力>
ITADAKIMASU FINE FOOD
住所/大阪市中央区難波5丁目1番60号 なんばスカイオ5階
HP/ 公式HPはこちら
Double Doors
営業時間/11:00-22:00(L.O.21:30)
筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。