114 2023年03月民土の高い地域には、いいフレンチやイタリアンがある。これは自論だ。教育水準が高く、文化性を好むエリアは、どうしてもグルメが多い。なので彼らの舌を満たすレベルの高い店が成り立つという論法だ。明治の森箕面国定公園を有す箕面市は、大阪のベッドタウンでもあり、高級住宅地があるエリアとして知られている。そこで長年、仏料理店を営んで来た浮田浩明さんは、北摂では名の知られた料理人。単にいいものを提供しているだけではなく、地球環境にも配慮した取り組みを行っている。そんな浮田シェフが仏料理店を箕面駅近くから滝道へと移転した。一の橋のたもとにある「フランエレガンYUZUYA橋本亭」の二階をリニューアルして個性的フレンチとしてオープンさせたのだ。聞けば、フードアクティビストとして活動する中で知り合った人や発掘した食材を使ってフレンチのコースを出しているという。早速、このコーナーで紹介しようと思い、寒日に「YUZUYA A TABLE Ukita」を訪れてみた。浮田シェフは、使い慣れた湯浅醤油・丸新本家の商品を用いていかに料理表現を行ったのであろうか。

YUZUYA A TABLE Ukita 浮田浩明
(「YUZUYA A TABLE Ukita」オーナーシェフ)
「黒豆みそは、オリーブの
雰囲気を有し、の味噌にも
関わらず洋風料理によく合います。
一般的な味噌より酸味を感じるので
サラダに用いてもいいですし、
バターやオリーブ油との相性から
仏・伊料理にも使えます。」

単に料理表現だけに止まらず、環境にも配慮した取り組みを

箕面市は、大阪のベッドタウン的な位置づけである。その存在は、すぐに箕面公園を想像するものの、市の南部には高級住宅地が広がっており、それだけ民土も高い。旧来の住宅地に加え、彩都が開発されており、さらにこの市は住宅地要素を強めつつある。とは言っても中部から北部にかけては山間地で、有名な箕面の滝を始め、勝尾寺、瀧安寺など観光名所があって、それらは当然ながら明治の森箕面国定公園内に含まれる。
私が「YUZUYA A TABLE Ukita」を訪れたのは、冬の平日。寒日なのに観光地らしく、散策を楽しむ人が目立つ。秋の紅葉時ならともかく冬の平日に観光客はいないだろうと踏んでいたこちらがバカだった。車と人でなかなか通りづらい有り様なのだ。目的の「YUZUYA A TABLE Ukita」は、一の橋のたもとにある仏料理店。オーナーシェフ・浮田浩明さんが営む北摂の屈指のフレンチである。浮田シェフの店は、このコーナーの第95回でも取り挙げている。その時の名称は「フランエレガンYUZUYA橋本亭」だった。その折りは、箕面駅近くに仏料理店「franc et élégant」、滝道にカフェの「YUZUYA橋本亭」「YUZUYA別邸」の三カ所で店を営んでいた。箕面駅にほど近い「franc et élégant」をこの度、「フランエレガンYUZUYA橋本亭」の中へ移し、建物の一階部分を従来のカフェ利用にし、二階をリニューアルさせて仏料理店にした。そして仏料理店のみ名称を「YUZUYA A TABLE Ukita」と変えたのだ。「YUZUYA ―」の名称でもわかるように、浮田シェフは箕面の実生の柚子に着目し、「LITTLE TREASURE」などそれを使った商品開発を行うと同時に、この箕面公園内で飲食店を開いている。とにかく地の名産に注目し、それをムダなく使いたいと考えたわけだ。「実生(みしょう)」とは、種子から発芽した植物のこと。接ぎ木などせずに一から育ったものを指す。箕面の柚子は、今から1300年前に伝わったそう。今でも100~200年の木がざらにあり、毎年実をつけているという。箕面の柚子は、日本の三大実生柚子と称され、市内の止々呂美(とどろみ)地区が有名な産地。一般的な柚子は、接ぎ木栽培がほとんどだが、それに比べると、実生栽培の柚子は大粒。香りも高いとされ、高級品的な取り扱いがなされている。浮田シェフは、それだけ歴史があって地元に根づくものを大事にする意味でもブランド化を目論みPRしたいと考え、ドレッシングやスイーツづくりにそれを使用。彼の言葉を借りれば「箕面の実生の柚子は、50年かかって味に円熟味が加わる貴重なもの。豊かな風味で、さらに栄養価が高いこの柚子を用い、美味しくて健康的で持続可能な料理やスイーツを提供している」そう。オススメの「Minoh Sweet LITTLE TREASURE」は、フェアトレードのホワイトチョコレートと、黄身餡を合わせて柚子の香りを求肥で包んだ仕様に。上品な味わいは、滝道散策のお土産として売れているようだ。

前述の言葉でもわかるよう、浮田シェフは、SDGs的な取り組みに余念がない。彼は常々「単に特産品を使ったスイーツや料理を提供するのではなく、その向こう側にある地球環境や生活環境の問題に目を向け、小さな歩みでもできる事をやり続けたい」と言っており、箕面の山や自然を守ることを念頭に置きながら次代に繋げる温かで健康な食卓をも提案して行きたいと話していた。最近話題となっているコオロギ食もその一つ。日本は人口が減少気味だが、世界に目を向けると、着実に増加傾向にある。このまま推移すると、2050年には100憶人に達すると言われているのだ。そうなってくると栄養素の一つであるタンパク質をいかに確保すべきかが問題になって来る。そこで現在、そのタンパク質補給にコオロギが適していると、学者間では論じられている。ちなみに牛肉では飼育時の環境負荷が大。牛を飼育すると、温暖化ガスが2800g、水22000ℓ、飼料10㎏が必要となるのに対し、コオロギだと、順に100g、4ℓ、1,7㎏あればいいとされる。つまり欧州でも昆虫食が注目されているようにコオロギは次代の救世主のような素材なのだ。浮田シェフは、コオロギを含有した粉でパンケーキを焼いたりしている。それが深刻化する環境問題への一つのメッセージであり、「少しでも料理人として時代のために何かできないか」との自身への問い掛けでもある。

カ
キ
ク

前述の言葉でもわかるよう、浮田シェフは、SDGs的な取り組みに余念がない。彼は常々「単に特産品を使ったスイーツや料理を提供するのではなく、その向こう側にある地球環境や生活環境の問題に目を向け、小さな歩みでもできる事をやり続けたい」と言っており、箕面の山や自然を守ることを念頭に置きながら次代に繋げる温かで健康な食卓をも提案して行きたいと話していた。最近話題となっているコオロギ食もその一つ。日本は人口が減少気味だが、世界に目を向けると、着実に増加傾向にある。このまま推移すると、2050年には100憶人に達すると言われているのだ。そうなってくると栄養素の一つであるタンパク質をいかに確保すべきかが問題になって来る。そこで現在、そのタンパク質補給にコオロギが適していると、学者間では論じられている。ちなみに牛肉では飼育時の環境負荷が大。牛を飼育すると、温暖化ガスが2800g、水22000ℓ、飼料10㎏が必要となるのに対し、コオロギだと、順に100g、4ℓ、1,7㎏あればいいとされる。つまり欧州でも昆虫食が注目されているようにコオロギは次代の救世主のような素材なのだ。浮田シェフは、コオロギを含有した粉でパンケーキを焼いたりしている。それが深刻化する環境問題への一つのメッセージであり、「少しでも料理人として時代のために何かできないか」との自身への問い掛けでもある。

「丹波黒豆みそ」の特徴を掴んだ洋風料理

ところで、今回もいつものように湯浅醤油・丸新本家の品を使って浮田シェフに料理を作ってもらった。「YUZUYA A TABLE Ukita」では、以前から新古敏朗さんと知己があって商品づくりに惚れ込んでいることから店ではそれらを調味料として常用している。今回取材用にと調理してくれたのが、①「黒豆みそのプルドサンド」と②「短角牛のスピナッチロール」である。プルドポークとは、17世紀頃に生まれたバーベキュー料理で、豚肉をスパイスに漬け込み、ホロホロになるまでじっくり火を通し、やわらかくほぐしたもの。米国でできた料理で、向こうではBBQの三大料理に挙げられるほど。浮田シェフは、それを豚肉ではなく、播州百日鶏の胸肉で作った。鶏肉をガーリックやガラムマサラ、クミン、オールスパイスなどのスパイスでマリネして一日置く。それを白ワインで煮るそう。「水分がなくなってホロホロになるまで煮込むんです。仕上げは『黒豆みそ』で_」。それをフリルレタス、甘酢にした赤キャベツと一緒にクロワッサンに挟めば出来上がり。プルドポークならぬプルドチキンで食べる一品料理である。「本来は、脂っこい豚肉で作るのですが、今回はヘルシーに仕上げたいと思い、播州百日鶏の胸肉を用いました」と浮田シェフ。自身のレストランとは別に長堀橋(大阪)にあるホテルのコンサルタント的な仕事もやっており、そこへ卸すのに作ったのがこの作品だとか。食べた感じは、一日漬けたというものの、スパイスはそこまで強くなく、食べ易くなっている。クロワッサンの甘さとプルドチキンが合わさり、その一体感が何ともいい。仏料理だけではない幅の広さが窺えた。浮田シェフは、「黒豆みそ」を「オリーブのような香りがして、味噌っぽくない」と表現。酸味もあり、香りが強いから使い易いと評していた。だからだろう、この一品を食した時にオリーブ油的味わいがした。「黒豆みそ」で仕上げた特徴が醸し出している。

二品目の「短角牛のスピナッチロール」は、赤身の肉(短角牛)を開いて、バターでソテーしたホウレン草をバーニャカウダソース、「黒豆みそ」と合わせ、中に入れて包んだ料理である。調味は「黒豆みそ」でシンプルに、牛肉は表面を炙るぐらいで仕上げている。前述したように浮田シェフは、青森で短角牛と出合い、それを料理に用いるようになった。「この牛は、北里大学の先生と『漆畑畜産』が研究して飼育しているもの。穀物を余り与えず、放牧させて牧草を食す、いわばグラスフェッドビーフ。サステナブルな牛なんですよ」。彼の説明では、春から秋までは放牧し、運動している分、脂が少ない。冬は牧草を貯めて発酵させ、餌として用いる。だから牛舎にも独特の臭さがないそうだ。「一口食べると、一般的な黒毛和牛の方が旨く感じるかもしれませんが、あっさりしている分、この肉の方が食べ易いはず。だから沢山食べることができます。牧草で育った牛と穀物で肥育した牛とでは、明らかに差があるんですよね」。調味には、バーニャカウダーだけではなく、「黒豆みそ」も使った。それを加える方が味にパンチが出ると説明していた。「短角牛のスピナッチロール」にも「黒豆みそ」を用いた浮田シェフだが、それくらいこの味噌がお気に召したよう。「和の味噌なんですが、洋風に合います。バターやオリーブ油との相性もよく、オリーブのような雰囲気を有しているのがいいですね。一般的な味噌より酸味も強いからか、調味しやすいんですよ」と言っていた。

浮田シェフは、自身を「飽き性かも」と認める。1カ月間同じものを作っていると飽きて来るらしい。「これが名物です!と言ってずっと同じ料理を作り続けるタイプがいますが、私は決してそうじゃない。発酵をテーマにしたので味噌も酒粕も使って調味しましたが、ずっと同じようにはできません。飽きてしまうんですよ。でもリニューアルオープン(2022年8月23日)以来、味噌も酒粕も一回廻って今はまた使い出したって感じですかねえ」。そう話す浮田シェフを見て、つくづく職人なのだろうと思ってしまう。職人故に素材や調味料にも妥協を許さない。サービス云々よりも、作るエクスタシーの方が幅を利かせているのだ。料理が楽しいから常に調理方法を考えているのだろうと感じた。季節はやがて春へ_。そうすれば、もっと散策する人は増えるに違いない。箕面公園に訪れる人達に“食”の愉しみを伝授するにはふさわしい店である。

  • <取材協力>
    YUZUYA A TABLE Ukita

    住所/箕面市箕面2-5-37

    TEL/072-725-9552

    HP/ 公式HPはこちら


    営業時間/12:00~15:00、18:00~22:00(完全予約制)

    休み/月・木曜日   ※但し、「フランエレガンYUZUYA橋本亭」(1階カフェ利用)は、11:00~20:00営業、不定休でオープンしている

    メニューor料金/
    昼 スタンダードコース 7700円
      プチコース 5500円
    夜 スタンダードコース 13200円
      プチコース 11000円



筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい