2018年07月
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夏の風物詩に挙げられるかき氷が異常なブームを迎えている。それを食べるために旅行に出る向きもあれば、並んで食すのは当たり前と言う人もいる。かつてかき氷は、シロップをかけたシンプルなものと決まっており、7月の声を聞くまでは店に出て来なかった。それが今の時代は冬でも供す店が現れるほど人気アイテムになっている。伊勢神宮のおかげ横丁では、かの「赤福」がかき氷屋をやっており、連日満員だと聞く。ならば、今回はかき氷について触れてみたいと思っていたら、神戸メリケンパークオリエンタルホテルから、粋な案内が来た。広報担当者によれば、注目株のシェフ・岸本達哉さんがユニークなフラッペを考えたのだという。そこで今風のかき氷事情と称して同ホテルの話を書くことにした。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
ふわふわ氷や、フラッペなのに炙るものと、
とにかくユニーク。
ホテルシェフならではのかき氷表現術。

かき氷は、東京弁ぶっかきごおりの略

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夏が暑いのは当たり前だ!なんて言っていた日々が懐かしい。近年の夏は猛暑の連続で、巷には熱中症が続出。暑い暑いとさえ言いたくはなく、秋の彼岸が早く来ないかと思ってしまう。某小説を読んでいたら9月には珍しく30度以上の日がありと書かれ、それによって起こる蜃気楼現象をトリックとして用いた推理だった。文中にある30度以上の日が珍しいとは、すでに死語のようになっている。今では人の体温をも上回る日が何日もあるのだからやり切れない。
暑~い夏の風物詩といえば、かき氷だろう。私が子供の頃は、駄菓子や氷屋でそれが売られていて、子供の小づかいでも連日食べに行ける程安かった。この時代は、今のフラッペとは違ってシンプルなかき氷ばかりで、いちご、みぞれが主流で、あっても宇治金時ぐらいだった。それがいつしか、喫茶店の夏メニューになり、カフェやファミレスではフラッペなる言葉で販売するようになった。元来、フラッペは仏語でFrappeと書く。仏語では氷で冷やしたものの意で、お菓子辞典には、果物のピューレでシロップにしたものを凍らせたデザート、または牛乳と生クリームをミキサーにかけたソフトクリームのような柔らかく冷たいものをいうとある。お菓子やカクテルの用語として使われているものが、いつしかかき氷のオシャレな表現に変わったようだ。

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かき氷とは東京の方言「ぶっかきごおり」の短縮版。関西では「かちわり」と呼んでおり、それが東京的表現に統一されていった。かき氷自体の歴史は古く、清少納言の「枕草子」の中に刃物で削った氷に甘葛(あまかずら)をかけた記述が出て来ている。氷なんていうものは古くからあったのだろうが、冷蔵庫のない時代に夏に食べていたとは思われない。となると、かき氷はどの季節の食べ物だったのだろう。
文明開化となった明治2年、横浜の馬車道で日本初の氷店が開かれた。この頃はボストン産の輸入氷が主流だったそうだが、中川嘉兵衛が函館で産した函館氷が東京にも出始め、外国産より良質で安かったことで評判を取る_、明治の初めはそんな風潮であったのだ。明治16年に東京製氷が人造氷の生産をしたことから広まっていき、かき氷は大衆的なものになる。ただ、氷削機が一般化するには昭和を待たねばならない(明治20年に村上半三郎が氷削機を発明してはいたが…)。戦前は氷に砂糖をふりかけた雪や、砂糖蜜のみぞれ、小豆餡の金時が関の山で、戦後になっていちご風味やレモン風味のシロップができていく。

フレンチのシェフが作ったかき氷

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さて、話を現代へと進めたい。近年、かき氷がブームとなっており、巷にはその有名店も幾つかできているし、冬場にもそれを出す店もある。神戸中突堤に位置する「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」では、その流行をいち早く察知してか、3階(フロントのあるフロア)にある「ラウンジ&ダイニング ピア」にて創作フラッペを出しているのだ。広報の柏崎保子さんによれば、すでにフラッペフェアは4年目になるらしい。スイーツの街・神戸にも関わらず、かき氷については有名どころが少ない。ならば、ホテルのシェフの技術を使って面白いものが作れないだろうかと始めたようだ。担当するのは「ピア」の料理長・岸本達哉さん。若くして料理長に就いた人で現在32歳の注目株。季節の食材を用い、食べ合わせから生まれるハーモニーを計算して調理するというこだわりを持つ。フラッペのフェアを担当するのは今年で三回目だそうで、かつては「オシャレなフラッペを作ろう」と意気込んでいたが、三回目ともなると肩の力も抜け、色んな視点から考えるようになったと言う。「この所毎夏やってるんで、創作といってもやりつくした感が否めません。初回と二回目の売れ筋からマンゴーフラッペの進化版を挿入。変わり種を一つに、定番的なものを一つ入れて構成しました」と説明していた。

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岸本料理長が考案し、7~8月の二カ月間提供するフラッペは、「マンゴーフラぺ」(1400円)、「クリームあんみつ仕立て抹茶フラッペ」(1500円)、「クレームブリュレフラッペ」(1200円)の三種。かき氷機を新しく購入して台湾風の如く、ふわふわにしたり、氷を炙るなど面白い試みも加えられている。
岸本料理長が「変わり種」と称した「クレームブリュレフラッペ」は、見ためはかき氷には見えず、スイーツのような雰囲気を持っている。グラスの下にプリンを敷き、その上にチョコレート、かき氷、カスタードと載せ、チョコレートアイスとフィアンティーヌで彩られている。パフェのように思えるが、実はフラッペで、カソナートを炙るという新たな試みが加わっている所が面白い。「氷なのに炙るというのが斬新でしょ。何かのサプライズが欲しいと思ってこうしました。ずっと氷だと飽きてくるので、色んなものを層に分けて載せました」と岸本料理長。パフェを味わうが如く、フラッペを食す_、そんな新しいスタイルでもある。
女性には必ず人気が出るだろうと目される「マンゴーフラッペ」は、かき氷の違いが実感できるメニュー。このために購入したというかき氷機で、ふわふわした柔らかなものを削り、従来のシャキシャキした氷と合わせた。グラスの底は、こちらはブランマンジェ。下から黄色・白色・黄色とかき氷が層を成し、マンゴーとココナッツのメレンゲがトッピングされる。白色部分は従来からのシャキシャキしたかき氷で、黄色がマンゴーのかき氷。台湾風にふわふわした仕様で、シロップをかけるのではなく、あらかじめマンゴーの氷を作ってから削っている。シロップにはココナッツソースを使用しているのだが、これまたマンゴーと好相性でぴたっと味がはまる。「全部マンゴーのふわふわした氷にすると、くどく感じそうなのでわざと粗い氷を入れて作っています。大きなマンゴーも幾つか載っているので贅沢でしょう」。
「クリームあんみつ仕立て抹茶フラッペ」は正統派。こういったフェアを催す際は、やはり定番が必要で、最終的にはこの手がいい数字を残すのかもしれない。バニラアイス入りのかき氷に自家製抹茶ソースと小豆、白玉がバランスよく配されている。三つのうちでこれが一番高いが、店によると抹茶にいいものを使ったのでどうしても1500円を下らなかったらしい。
ちなみにこれらのフラッペは、同ホテルの「ピア」で7月1日~8月31日まで出している。レストラン自体は11:00~22:00(土日祝は8:00~)まで営業しているが、フラッペは11:00~17:00の間のみ。同店では神戸港を眺められるので、夏の雰囲気を十分持たせつつ涼しい所で食べるのもいいだろう。

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