2015年03月
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日本茶の消費量が落ちている。便利なペットボトルのお茶が販売された結果、茶葉を使わなくなったという日本人が増加している。このままでは日本茶の文化が衰退するのでは…と危具していたらひとりのフランス人が一石を投じてその文化を守りたいと話していた。彼が打ち出したのは、フレーバーを用いた日本茶。これまでにないもので、中にはチョコミントの香りや焼きいもの香りがするものさえある。今回は、日本茶業界に新ジャンルを作ろうとする茶商・ステファン・ダントンさんについて語ってみる。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
エッ!日本茶なのにぶどうの香りがする⁈
茶商・ステファン・ダントン氏が打ち出した
日本茶の新たな可能性

フレーバーティーで日本茶消費の間口を広げる

神戸産の野菜

3月に兵庫県神戸県民センターが開いた「平成26年度農の神戸ブランド推進協議会研修会」に行って来た。これは前回書いた神戸ブランド創出作戦の一環で、講演会と実績発表会、試食会、意見交換会という内容のもの。いわば昨年行ったプロジェクトの総決算的催しである。この時、講演したのがステファン・ダントンさん。同氏はフランス人でありながら日本茶に魅せられ、吉祥寺(東京)で「おちゃらか」を開業。日本茶のフレーバーティーという新たな分野を打ち出してマスコミでも注目されている人物だ。

神戸産の野菜 ダントンさんは、フランス・リヨンの出身。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブルでホテル経営を勉強し、大学時代に日本で語学留学した経験を持つ。アジアでワインを広めたいと思い、1992年に再来日したが、紅茶専門店で勤めているうちに日本茶の魅力にとりつかれ、日本茶の可能性を切り開くための勉強を始めている。2005年にはその成果を試すべく、吉祥寺に「おちゃらか」をオープンさせ、静岡の川根茶を中心に日本茶ベースのオリジナルフレーバーティーを開発して販売するに至った。その面白さと活躍ぶりをマスコミは見逃すはずはなく、新聞はもとより雑誌、テレビでも取りあげられ、テレビ東京「ソロモン流」では、賢人・ステファン・ダントンとして紹介されている。

神戸産の野菜神戸産の野菜

ダントンさんによれば、日本茶業界は旧態然としており、昔からのスタイルを固持し続けるが故に消費量を落としてしまっているとのこと。茶葉を急須に入れてお茶を味わう人は、年々減って来ており、ペットボトルのお茶が横行するあまり本来の味わいを忘れつつある。そんな状況下で手をこまねいては、将来絶望的状況に陥ってもおかしくはないと指摘するのだ。ダントンさんが打ち出すのは、フレーバーティーなる新分野。紅茶ではその分野は確立されていても日本茶にはなく、香りで誘うという手法が成功すれば、自ずと間口は広がっていくと考えている。ダントンさんはフランス人にして日本茶商になったぐらいだから日本茶の旨さは当然熟知している。しかし、飲んでもらうためには香りや飾りは必要で、その部分をフレーバーが担えばいいと考える。「日本茶には色んな種類があると言われた。ワインのように産地ごとに味わいも違う。でもそれはあまり知られていない。目で色を見ると、次に鼻で香りを嗅ぐ。それがよければその次は口へ持って来る」とダントンさんは話す。そしてそこで閃いた答えがフレーバーティーだったのだ。フレーバーティーを日本茶ではないと批判する同業者は多い。でも、ダントンさんは「フレーバーはあくまで入口にすぎない」と言う。ダントンさんから見れば、日本人は文化を守る意識が強すぎるそうだ。そして入口や入門編を作るのがヘタだとの感想を持っている。そういえば、日本人はモノごとを追求する嫌いがあって、突き進みすぎて他人が寄って来ない。そんな状況を我々はよく目にしてきた。日本酒や焼酎、ワインもそんな環境下にあったためにひと頃のブーム以降は苦戦を強いられてもいた。「飲んだことがない人にわかりやすくしてあげることで間口は狭くならないはずだ」とダントンさんは指摘している。流石に日本茶を飲んだことがないという日本人はいないだろうが、これが外国だと全く未知なドリンクになってしまう。そんな時に柑橘系にいい香りがすると、彼ら(外国人)は未知なものへの興味を高め、口へと運ぶ可能性が出てくる。ダントンさんのフレーバーティーは、何も日本だけの市場を狙っているのではなく、外国をも視野に入れた商品づくりを行っている。

フルーツの香りはすれど、確かに日本茶!

神戸産の野菜神戸産の野菜

テーブル上に試飲用プラカップに注がれた三つのフレーバーティーがあった。右から巨峰、マンゴー、柚子となっている。日本茶なのでそんなに色の違いはないが、鼻に近づけると、ぶどうの香りがし、次にマンゴー、柚子と実感できる。ぶどうやマンゴーに比べると柚子の香りはそれほど強くはない。これは柑橘系はイメージしやすく、他の二つは、まさか日本茶からぶどうやマンゴーの香りがするはずないとの観念的なものから生じるのかもしれない。巨峰、マンゴーのような強烈な甘さがイメージできるものを口に含むと、そこは日本茶。フレーバーとは違ったこれまで味わってきた同じみのものが喉に流れていく。紅茶だとそこまでの違和感は感じないのだが、日本茶だから余計にそう思うのか。多分にこれは今までなかったものだから香りと味の差異があるように思えたのかもしれない。こう書いているからよくないのかといえばその逆で、実に面白い。間口を広げる意味でもあっていいし、紅茶がそうしているのだから、日本茶だからせぬ手はない。ANAの機内で流されているダントンさんを特集した映像を見せてもらったが、日本茶なんて興味がなかったという若い女性が「おちゃらか」で楽しそうにフレーバーティーを選んでいた。ダントンさんは、昨年10月にコレド室町(東京・日本橋)に新しい店をオープンさせた。そこでは100種のお茶が並んでおり、そのうち50種がフレーバーティーで、残りが純粋な日本茶だそうだ。このラインナップを見れば、何も奇をてらったものだけを売りたいのではないというのがわかる。フレーバーティーから入って純然たる日本茶へと行ってほしいというのが本音のようだ。「抹茶をわからせるには時間がかかる。入口としてそれは不向きなんだ。でもフレーバーティーならどうだろう?私はこの分野で新たな入口を作ろうとしている。フレーバーティーは日本人でも紅茶のジャンルにあるので誰もが知っている。だからフレーバーと日本茶を合わせたのだと説明すると、『嘘!』と嫌がる業界人がいる。私からすれば、彼らはいつも売りたいと言っているが、その気持ちが全く伝わって来ない。いつまでも同じことをしていただけではジリ貧になるんだよ」とダントンさんは言っている。

神戸産の野菜神戸産の野菜 彼がまず日本茶にフレーバーをつけようと思った時、何で試したのかを聞いてみた。すると、ダントンさんは「みかんです」と教えてくれた。その理由は簡単で、柑橘系はやりやすく親しみやすい。それに「日本は柑橘系の果物がいっぱいある」とも言う。ダントンさんの店には「夏みかん」「焼きいも」「チョコミント」「焼きリンゴ」などと記された茶箱が沢山並んでいる。研修会のおみやげに焼きいものフレーバーティーをもらった。事務所に帰って袋から取り出すと、ティーバックに入った茶葉からいきなり焼きいもの香りが漂ってきた。湯を注ぎ、色が出たら口へと運ぶ。焼きいもの香りとともに日本茶の味わいが伝わって来る。そういえば先の研修会で巨峰、マンゴー、柚子のフレーバーティーを味わった時も意外性のあるフルーツの香りがし、きちんとした日本茶の味が伝わってきた。そして口内には巨峰やマンゴーの味も残っていたように思う。巨峰やマンゴーに比べると柚子は地味な印象があったが、その分しっくり来る感じはそちらの方が高かったのかもしれない。ダントンさんの話では「チョコミントのフレーバーティーは、牛乳といっしょに煮出すと旨いんだ」とのことであった。エッ!日本茶を牛乳で煮出すの?まさに新しい飲み方だ。日本茶の愉しみ方をフランス人に教えてもらうというのが斬新だ。こう言っているうちは私も旧態依然とした業界の人と変わらないのかもしれない。ペットボトルのお茶は便利だが、文化を生まない。その文化に新たな間口を作ろうとしているフランス人がいる。日本文化とは、まだまだ捨てたものではなく、奥が深いのだ。それをステファン・ダントンさんが教えてくれている。

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