2022年11月
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以前もこのコーナーで取り挙げたオルタナティブアルコールだが、その展開が三年目に突入している。今年も10月25日にミツカンフォーラムで記者発表会が催され、多くの報道陣から注目を集めた。「ノンアルブームを関西から」の掛け声のもと、当社(クリエイターズファクトリー)とミツカン大阪支店が企画役を務め、関西の飲食店が中心となって「オルタナティブアルコールde流行づくり委員会」を結成し、そのブームづくりに勤しんでいる。今年のテーマは、「それぞれの生活シーンに、オルタナティブアルコールが存在する」で、飲食店やゴルフ場、バーで始めたこのムーブメントを家庭にも浸透させようとした。暮らしの中でどんなシーンにオルタナティブアルコールが必要かと考え、そのシーンごとに長けた人物にノンアルレシピづくりをオファーしたのだ。バーテンダーやシェフなどの料理のプロではなく、一般人にレシピづくりを頼んで完成させたのが本企画のミソである。これは暮らしの中というテーマでは、やはり一般人が主役なのでプロよりもいいと思ったからだ。ただ一部、「ノンアルと音楽のいい関係」テーマでは、事情もあってバーテンダーとソムリエにも参加してもらった。さて、食酢や食酢飲料を用いたオルタナティブアルコール(ノンアルカクテル)は、これから一般生活に根づくだろうか。そんな願いを込めながら今年のノンアルブームについて言及したい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
ノンアルブームが新展開へ。生活シーンの中で、どんなオルタナティブアルコールを飲みたいのか?バーテンダーから一般人までがそのオリジナルレシピを公開した!

バーテンダーのレシピを飲食店が使ってノンアルを定着

 

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二年前にグランフロント大阪で「ノンアルブームを関西から」の掛け声とともに飲食店店主らと一緒にオルタナティブアルコールの記者発表を行った。オルタナティブとは、主流に代わる新しいものの意味で、ここではお酒に代わるもの_、つまりノンアルコールカクテルを指す。私とミツカン大阪支店、関西の一部の飲食店で組織する「オルタナティブde流行づくり委員会」では、食酢や食酢飲料をベースにしたノンアルカクテルを、そう呼ぶこととして流行づくりを仕掛けている。このコーナーの第88回と第99回でも報じているが、おさらいの意味で我々が推奨するオルタナティブアルコールの特徴を記しておこう。きっかけはロンドンでシュラブ(フルーツビネガーをボタニカルや果実でフレーバー付けしたもの)が流行り、それを持って来て流行を作ることができないかと某飲食店が言い出したことによる。英国から輸入するとなると、けっこうコストが高くつく。それならいっそこっちでシュラブ的なものを作るのがいいのでは…と私が思いついた。シュラブは、ビネガーを用いるので、食酢メーカーの大手・ミツカンに協力してもらい、そのレシピを開発。それを発表してブームにしようと目論んだのである。レシピづくりには、メジャーなバーテンダーを起用しようと、「サヴォイオマージュ」(神戸・花隈)のオーナーバーテンダー・森崎和哉さんに白羽の矢を立てた。森崎さんは、カクテルコンテスト常連組みで、全国的にもその名が轟いている。2017年に香港で開かれたオールワールドオープンカップでは、その見事なカクテル技術で優勝を果たし、世界一になっている。そんな彼に飲食店で出しやすく、しかも食中酒のように使えるノンアルカクテルづくりを依頼した。飲食店はどうしても料理人が中心で、料理創作ならお手のもの。しかしドリンクとなると、シェフの範疇ではなくなり、サービススタッフの職域となる。バーならいざしらず、料理店ではアルバイトが作ることが多く、そんな彼らでも簡単に作って提供できなければ、絵に描いた餅のようになりかねない。そこを考えて創作したのが、森崎さんのオリジナル「シャイニーフレグランス」「ガーネットラブ」「サニーフレグランス」であった。この三種には、ミツカンの食酢飲料「フルーティス」が使われている。お酢が持つキック力をうまく融合させ、本格カクテル(アルコールが入ったもの)と見紛うような一杯に仕立てたのだ。お酢とアルコールは分子構造が似ており、吸収の仕方も胃で20%、小腸上部で80%と同じ。こういった理論を応用することでアルコールの代用にする。ここが我々のレシピづくりの根幹であった。森崎さんは、お茶を用いることで、お酢特有のツンとした酸味を抑え、炭酸を使いながらカクテル然とした飲み物にした。割合も1:2:2にすることでアルバイトでも簡単に作ることができるよう設計したのだ。この三種の他に少し複雑な作り方のものも加えて発表。それらのレシピを参加店舗で自由に使えるようにした。つまり料理店の苦手分野を名打てバーテンダーが補う仕組みを「オルタナティブアルコールde流行づくり委員会」では、考えたのである。これが見事にはまり、参加店からは続々と反響が寄せられた。これが今年まで続くオルタナティブアルコールの仕掛けである。

 

次なる一手は、暮らしの中に浸透させること

 

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飲食店では、その効果が徐々に浸透しており、参加店によると、グランドメニューに挿入し、流行づくりに寄与してくれているようだ。この動きをもう一歩進めて一般家庭に持ち込めないか_、これが今年のテーマでもある。我々は、どんなシーンでオルタナティブアルコールが必要になって来るかを考え、普段の生活と密着したノンアルカクテルを、そのシーンを代表する一般人に考えてもらった。生活シーンとしては、風呂上がりやリモートワーク中、試験勉強中、eスポーツ中に、身体を動かせる意味も兼ねてピラティスのレッスン前後という5つのシーンに、音楽・野菜・スパイスとこれまた暮らしにフィットしそうなテーマを加え、各々の分野に長けた人達にオリジナルのオルタナティブアルコールづくりを行ってもらったのだ。

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「風呂上がりの一杯」なるテーマを担当してくれたのが、有馬温泉の老舗旅館「御所坊」でフロント担当をしている木澤はつみさん。彼女は、身近に天下の名湯があることから「湯上がりのオルタナティブアルコール」というテーマにふさわしい人物だった。「御所坊」にはソムリエも料理人もいるのだが、できるだけ一般人に創作をお願いしたかったので、このテーマには彼女がぴったりな存在に映った。本来、木澤さんは、お酒大好き女子である。そんな人の方が、お酒を飲みたいのに飲めない人向けに考えるのにも適しており、左党をも満足させそうな手軽な一杯をと、考案してくれる。木澤さんは、「フルーティスレモネード」をベースに、スポーツドリンクとミックスベリーシロップを使って「湯上がりの贈り物」を創作した。彼女の話では、一風呂浴びるとかなりの汗をかく。入浴で失った水分を補給するのには、このオルタナティブアルコールがふさわしいそう。風呂上がりのビールも爽快感はあるが、アルコールは利尿作用があるので十分な水分補給が望めない。その点、スポーツドリンクで割った「湯上がりの贈り物」なら水分だけでなく、塩分も補える。それで割ることでお酢特有のツンとした酸味も軽減されていいのだと話していた。流石は、普段から温泉に接している人物である。

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昨今、仕事の仕方が変わって来た。職場に足を運び、オフィスで行うのが当たり前だったビジネスマンの世界も、コロナ禍を機にリモートワークが激増している。家での仕事は、緊張感を持続させるのが難しい。休もうと思えば休めるが、逆にずっと仕事をしっぱなしになるケースもある。リモートワーク中の一杯をテーマにオルタナティブアルコールづくりを行ってもらったのが、ミツカンの大阪支店に勤務する中條博明さんだった。中條さんは、週に二回ぐらいは、自宅で仕事をするそうだ。「家での仕事は、集中力をつけるのが大変」と言い、無音よりは、何かBGMがかかっていた方が捗ると話していた。そして時折コーヒーブレイクも入れて一息つくのも大事だと言う。中條さんが考えたのは、「シトラスグリーンジンジャー」。食酢(純米酢金封)と食酢飲料(フルーティス日向夏)の二つの酢酸効果を使って甘すぎないよう創作している。聞けば、甘いのが苦手なようで、緑茶や食酢で甘みを緩和し、すっきりとした味に仕上げたらしい。「オルタナティブアルコールは、ノンアルなので仕事中に飲んでも大丈夫。お茶ばかりじゃ飽きるので、それを挟みながらリモートワークをしています」と語っていた。

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創作という意味で、かなり頑張ってくれたのは、スパイス料理研究家の山本美和さんだ。彼女は、スパイスカレーの店「ヤドカリー」を経営していることもあってスパイスには詳しい。ハーブに続き、スパイスが家庭に根づくのでは・・・と言われ、昨今はスパイス流行りでもある。自身でもスパイスコーラを研究中とかで、お酢を用いたオルタナティブアルコールを創作している。彼女が考えた「りんごの酢コーラ」と「すっきりビネガーコーラ」は、スパイス数種を駆使しながら煮込んで作るものだった。ちなみに「すっきりビネガーコーラ」では、シナモン・コリアンダー・八角・クローブ・カルダモン・ブラックペッパーの6種のスパイスが使われ、リンゴ酢や砂糖・黒糖・生姜と共に煮込んでベースを作り、飲む時に炭酸で割っている。山本さん曰く「コーラの要素は、甘み、酸味、香りの三つ。その酸味部分をお酢が担うと面白い」ようだ。

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「北新地西洋料理店ふじもと」で知り合った横笛演奏家の藤舎伝生さんも我々の試みに興味を抱き、力を貸してくれた。藤舎伝生さんは、邦楽囃子藤舎流の笛方で、日本舞踊界や歌舞伎・文楽の世界でも活躍している。「ノンアルと音楽のいい関係」というテーマなら、流行歌や西洋音楽と交わるよりも日本の伝統芸能とコラボする方が面白いと思い、彼の協力を仰いだ。藤舎伝生さんに話を聞くと、舞台が連続する時は、コンディション維持に気を遣うそう。自身が体質的にカフェインに敏感なこともあって楽屋ではコーヒーはもとより、緑茶も飲まないようにしているのだとか。そんな話を聞いた天王寺のバーテンダー・鮎川正徳さん(「Bar 7th」と「alcobareno」を経営)が、藤舎伝生さんが楽屋でも飲めるようにと、オリジナルのオルタナティブアルコールを開発してくれた。「佐用姫」なるノンアルカクテルがそれ。鮎川さんは、藤舎伝生さんが佐賀県出身ということもあって伊万里名産の梨を用い、佐賀に伝わる佐用姫伝説をイメージさせてそれを作った。佐賀の梨と、藤舎伝生さんが現在住む大阪の名産品・ひやしあめを上手く融合させた一杯で、上品な甘みと柔らかな味わいが特徴のカクテルに仕上がっている。自分の嗜好を捉えたオリジナルノンアルカクテルができたとあって嬉しさもひとしお。本番前に喉を潤す目的で水筒に入れて持参したと言っており、楽屋の供となりそうな雰囲気に。鮎川さんは「梨は優しい味なので丁度いいかも。梨のない季節にはりんごで代用して作って欲しい」と話していた。ちなみにりんごを用いると、梨に比べてその味わいはシャープになり、はっきりしたものになるらしい。

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藤舎伝生さん絡みでは、もう一つある。それは彼が行きつけの「北新地西洋料理店ふじもと」が創作したオルタナティブアルコールだ。藤舎伝生さんは、お酒好きで仕事終わりにこの店へ来て食事をすることが度々ある。同店のソムリエ・矢野貴代美さんは、舞台が連続する彼の体調を気遣ってお酒に見紛う一杯を開発し、酒の間にそれを挟むことで酒量を抑えようと考えた。「cham-to(シャン・ト)」と「贋作檸檬茶話」と名づけられたオルタナティブアルコールがそれで、前者はシャパンイメージで創作。片や後者はレモンチェッロ風に作るつもりが、レモン酎ハイのような味わいになったようだ。供に「フルーティス」と「三ツ判山吹」を使用して作るのだが、粕酢の「三ツ判山吹」が入ることで、甘みを軽減し、すっきりとした味になるよう設計されている。鮎川作品といい、矢野作品といい、供に伝統芸能の世界に身を置く藤舎伝生さんに寄り添って作ったノンアルカクテルで、邦楽とのいい関係を醸し出している。
さて、三年目に突入した我々のオルタナティブアルコール展開だが、ミツカンで聞くと、お酢の新たな使い方提供になっているとかで、今や大阪支店発信として全国に訴求しようとしているようだ。参加しているバーテンダーによると、お酢は十分リキュールの代役を果たすことがこの実証で明らかになったそう。飲食店はもとより家庭での広がりが出て来れば、ノンアルブームは新しい時代を迎えてもおかしくあるまい。

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