2018年09月
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 第1回目の「食の現場から」で、獣害問題による鹿肉需要喚起を記事にした。それから足かけ5年_、小代鹿はうまく流通しているのだろうか。私が知る限りでは、「さかばやし」にて毎年9月になったら、小代鹿を直仕入し、メニュー化を行っているが、実はここで確実に鹿肉ファンを増やしているような気がする。鹿肉といえば、どうしてもフレンチ素材として知られ、多くの店がフランス産やニュージーランド産、国内産でもエゾジカを使うのが当たり前のようになっている。ましてや和食で展開する所は少なく、そのメニュー化も兵庫県北部の獣害問題に端を発している点が面白い。今回の「食の現場から」では、かつての記事を受けて再度鹿肉の需要喚起を訴えたい。ヘルシー食材で、まだまだ広がりが持てることを知ってもらえれば幸いである。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
小代鹿(おじろじか)は、ブランド化たりえるか?
地元NPO法人と灘の日本料理店が続ける試みとは…。

和食素材としての可能性は…?

 

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「食の現場から」の第一回目に「今こそ見直したい鹿肉の需要価値」と題する記
事を書いている。これは有馬「御所坊」で催された(マスコミ向けにではあるが…)鹿肉の食事会を受けてのレポート。兵庫県北部で獣害問題がひどくなり、鹿や猪が農作物を喰い荒らす対策として鹿肉需要を喚起するために行ったものだった。では、なぜ猪ではなく、鹿を問題視するかといえば、それは料理素材の価値によるところが大きい。猪は、冬にはボタン鍋の素材という歴とした名題がある。けれど鹿肉はそこまでの名物料理もなく、使うとしても一部のフレンチが関の山だからだ。この時、「御所坊」には大阪のフレンチのシェフが来て、その使用例を示していたが、やはり和食での使い方は薄かったように思う。私としては、需要を喚起するなら和食や中華の域にまで広げる方がいいと考えた次第である。

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そんな思いに乗ってくれたのが、このコーナーでもよく報じている神戸酒心館蔵内の日本料理店「さかばやし」だった。同社副社長の久保田博信さんや営業部長の坂井和広さんは、たとえ一カ月間でも小代鹿に注目させるべく、「旬を堪能する会」や一品料理で和食内での可能性を探ってくれたのである。意外と言ったら失礼だが、当方もこの企画を提供したものの、ここまで毎年続くとは思ってもいなかった。毎年、9月になると、調理場では小代から鹿肉を仕入れ、前述の「旬を堪能する会」はもとより、会席料理の一部や一品料理に鹿メニューを出している。「旬を堪能する会」に出席した顧客に聞くと、「フランス料理ならともかく、日本料理でどのようにこの食材を使うのかが興味津々だった」そうで、楽しみに毎年申し込んでいるのだと言っていた。「さかばやし」の加賀爪正也料理長も嫌がることなく、それを使い、鹿づくしの会席料理をうまく構成している。片や幸徳伸也店長は「会席の一部に鹿肉を入れると、拒否するお客様も出てくるかなと思って代替食材(料理)を用意してあるのですが、それを使うことがほぼないですね」と話す。「鹿肉を食べたことがない」と言う人もいるが、きちんとその良さを説明すると、嫌がらずに受け入れるようだ。「全然臭みもないし、美味しいですね」と言いう人が大半で、それらの客は必ずや次年度に鹿肉を食べに訪れると教えてくれた。そう考えれば、あながち和食食材に使えると判断した経営側に間違いがなかったことがわかる。今年も9月6日の夜に「おじろの夏鹿と"ひやおろし"を楽しむ会」が催される。幸徳店長からは、「早くから申し込まれている方も沢山います。幸い小代の鹿肉は昨年レベルの価格や質で仕入できるので今年もいい献立を提供できるはずですよ」との弁が得られた。色んなものが値上がっているこの時期に嬉しいコメントである

獣害問題なら8月の鹿肉を使いたい

 

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ところで鹿肉は、牛肉や豚肉と比して脂肪が少ないことからヘルシー食材だといわれている。低カロリーな上に高タンパクで、鉄分も多いとあって注目しているグルメも少なくはない。ところが一方では、肉は牛・豚・鶏しか口にしないという人もおり、どうしてもジビエ(野禽類)は、一部のグルメにしか支持されていないのも現実だ。かつては鹿であれ羊であれ、いいものが流通しておらず、それらを食べた人が「クセが強い」とか、「臭い」とかと言って毛嫌いして来た歴史がある。だから今でもジビエは一定の広がりしか見せないのだ。でもウサギも食べれば、鳩も食べる欧米では鹿肉は最上の肉として扱われており、ドイツ(最大消費国)だけでも年間45000tも消費するらしい。日本ではエゾジカを使う所が多く、狩猟国・北海道に鹿肉を求める。これとて1990年代後半から2000年代になってエゾジカが繁殖し、農業被害や交通事故による問題が派生したために積極的に食用に回し始めた結果による。それまでは国内需要とてフランス産やニュージーランド産に頼っていたのであろう。こうして考えると、数年も遅れてはいるが、兵庫県北部の目論見も同じではある。
但馬地方と呼ばれる兵庫県北部では、夏の農作物が育つ時季に鹿や猪が出て来て喰い荒らしてしまうことに頭を痛めていた。ジビエといえばハンターが活躍しそうだが、この時季はまだまだ鉄砲解禁ではない。そこで罠を仕掛け、ヤツらを生け獲りにするようにしたそうだ。町では、鹿や猪の専門処理場を造ってそこでいち早く処理をする。そして肉を冷蔵室で吊るして保管する。「峰鹿谷」(ほうろくや)は、町の人達がNPO法人として設立した鹿肉流通のための組織。香美町小代区で、鹿肉として出せるようにと作ったらしい。

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「さかばやし」が9月に鹿肉を仕入れるのが、獣害問題解決のために設立したこの「峰鹿谷」なのだ。ではなぜ「さかばやし」が9月に食事会を企画するかというと、実は鹿肉は8月が旨い。この夏の一カ月だけ脂を巻くといわれている。しかも獣害が発生するのは、農作物が実る夏_、この問題を解決するのにもその時季がいいのである。肉は魚と違って捌いてもすぐには食べない。冷蔵や冷凍による熟成期間が必要だからだ。すると、8月に獲った鹿がその熟成を経るには9月がぴったりだという計算になる。
兵庫県で鹿というと、丹波鹿の方が有名だろう。春日町(丹波市)には「無鹿」(むじか)なる店があってここで鹿料理をコースとして供している。関西の鹿肉ファンには有名な店らしく、土日には遠方から車を飛ばして食事に来る人が多いと聞く。店主・鴻谷佳彦さんは地元の農産物や鹿肉提供を通して地産地消の推進に余念がない。聞くところでは、鹿肉の普及にあたって丹波の学校で調理指導を行ったり、学校給食へのメニュー化を提案しているという。ここまでするからこそ、丹波鹿は有名になっているのだろう。
「峰鹿谷」ができて鹿肉の処理や流通がスムーズになる一方で、はやり丹波鹿のようなブランド化も必要になっていく。だが、それは一足飛びには行かないこともわかっている。「さかばやし」の毎年の取り組みが小代鹿需要の高まりの一助になることに期待したい。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい