2013年11月
10

漁師や漁協の人と懇意にしている私は、漁港によく足を運ぶ。旨い魚を喰うならそれが最もいい策だからだ。しかし、足を運ぶ度に彼らの口から語られるのは、深刻な問題ばかり。後継者不足は、漁業に限ったことではなく、農業や工業にもいえること。それよりも自然の異変の方が気になって仕方がない。今月の「食の現場から…」は、漁業関係者から語られる諸問題を記してみた。旨い魚を味わうために、私達がしなければならないこととは…。そんなヒントをこの話から見い出してくれないだろうか…?

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
海の異変について
真剣に考えるべき時代に突入している。

なぜサンマが高騰するのか?

神戸産の野菜

TPPなどで農業にまつわる諸問題が取り沙汰されがちだが、実は漁業もそれ以上に深刻なテーマを抱えている。年々深まっていく地球温暖化は、当然、海温にも影響を及ぼしている。サンマに高値がつくという話も実はそれが原因で、秋になっても夏のような温度を保っているために漁場までサンマがやって来ないからだ。その証拠にようやく海温が下がった頃にサンマが獲れ始める。しかし、その時分は、旬をすでにはずしており、サンマが売れない。つまりサンマを食べたいと思う時にそれがなく、時期をはずれた売れない、もしくは美味しくない頃に大量に漁場へ集まるというわけだ。

神戸産の野菜こういった問題は、サンマだけに限らない。私は色んなものに「鱧の旬は秋である」と書いているが、それもそういっていられないようになりつつある。かといって晩秋に鱧が美味になるという事実は間違いではない。海温の上昇により、その旬の時期が年々短くなってきている。鱧は9月に子を離す。子が腹にいる夏場はエサを食べなければならないので当然身は旨い。それが産卵すると、一気に味が落ちてしまう。鱧が次に美味になるのは11月から12月にかけての晩秋時季。冬になると、鱧は冬眠してしまうために、その準備としてエサを沢山摂る。だから晩秋は美味になり、漁場ではその時季を旬と称している。それが海温が下がらないためにいつまでも鱧は冬準備をしなくなる。かといって冬眠しないかといえばそうでもなく、冬になると必ず眠るわけだからその準備期間が短くなり、自ずと旨い時期も短くなってしまう。今年の11月半ばに淡路島・由良漁港に鱧を食べに行ったが、本来なら旬の最盛期を迎えるべき11月半ばに、まだ身に甘みが乗っていなかったように思う(とはいっても旨かったのは事実だが…。例年に比べるとまだその一歩手前という感じだった)。

神戸産の野菜

淡路島の漁師に聞くと、今年は穴子も不漁らしい。近年、鰻が獲れなくなっている。その代用として穴子を用いようとする人がいるのだが(本来、穴子が鱧の代用を務める方が無理がある。個人的にいうと、鰻より穴子の方が旨いと思う)、その目論見すらはずれてしまっている。私がよく買う淡路島の某焼き穴子屋は、あまりの不漁と年末に向けての注文数に12月は店を閉じて、一見さんが入ってこないようにして穴子を焼き続けているそうだ。この不漁も、もしや海の異変のひとつか!?養殖のように人間が作ることができない魚は、全て海の異変の影響を受けているといえよう。

臭い魚が出回るシステムこそ問題あり!

神戸産の野菜神戸産の野菜

養殖と書いたが、これまた問題が起きつつある。最近、フルーツ魚なる魚が巷に出回るようになった。養殖の時点で柚子やスダチなどをエサに混ぜて食べさせると、ほのかに身に柑橘系の匂いがつくそうだ。これを「魚臭くないから…」と売り出しているらしいが、本来、魚は臭くないもの。それになぜ柑橘系の匂いをつけなければならないのか?答えははっきりしている。臭くなった、つまり時間がたった魚を流通するからである。そんなものを使わなければならないほど安値で仕入れようとする店の方と、安さのみを追求する消費者の方に問題があると、私は個人的に考えている。安くなるということは、犠牲にする何かが出てくる。ここで付け加えておくが、フルーツ魚自体を批判しているわけではない。フルーツ魚は、技術の革新で素晴らしいことだと思う。ただ、そうなってくる道筋が私には気に入らないということだ。先日、漁師が酒を飲みながらボヤいていた。「魚を獲っても金にならず、むしろ船を動かす経費の方が高くなってしまう」と――。もう一度、モノの値段については考えるべき時期が来ているのではないだろうか。

神戸産の野菜神戸産の野菜

大阪湾には多くの漁業従事者が船を出している。彼らは釣りや網で自然界に暮らす魚を獲るわけだが、年々それが減りつつあるそうだ。海が汚れているのかといえば、そうでもなく、逆にきれいになりすぎていると指摘する人がいる。山から水を川が運び、海へと流れ込む。色んなものがそれといっしょに流れてくるからこそ、海の中の森(ワカメなど海藻やプランクトン)は育つのだ。それがきれいな水しか流れて込まないので、森を育てる要素が少ない。それと海流も影響している。関西空港や神戸空港、明石大橋など人工的な建造物が水の廻り方をスムーズにしていないために異変が生じてきている。ある年、ダイバーが江井ヶ島沖(明石)に潜ってみると、タイラギが大量に発生していた。タイラギ自体は公害じゃないので、発生するのは悪いことではない。でも専門家に話を聞くと、水がきれいな所にしか棲まないので、プランクトンなど魚のエサとなるべきものがなくなったことを意味すると言っていた。つまり海の森が破壊されたのだ。こういった異変が徐々に形となって現れてきている。だから農業よりもむしろ漁業の方が深刻ではないかと思うのだ。

神戸産の野菜昨今は声高に「魚を食べよう」と叫んでいる。肉食が多くなったのは事実だが、かといって私は魚の方を重視しようと言っているのではない。でも本当に諸問題と向き合わないと、いずれ肉食オンリーの日々になってしまうかもしれない、それが恐ろしいのだ。 (文/曽我和弘)

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい