2013年08月
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地方に行くと、シャッターだらけの商店街を目にする。地元民や商店主に聞くと、「かつては活気があったのだけどねぇ」という言葉ばかりだ。なぜ、商店街はシャッター街に成り下がったのか?そんな疑問が頭をよぎる。全国から注目を集めるという神戸市東灘区の岡本商店街。シャッター街になるどころか、マスコミでもその活性術が取り上げられるほど元気な街である。今回は、そんな岡本商店街の企画力を取り上げてみる。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
神戸・岡本に見る商店街活性術

岡本ブランドが地方の御当地商品と違う点は?

神戸産の野菜

今、全国各地で深刻な問題が持ち上がっている。それはかつて賑わいを見せていた街が衰退し、それをいかに再生するかということだ。特に地方都市が酷い。長い商店街はいつしかシャッター街に成り果て、駅前だというのに人が通っていない。こうなってしまったのは、東京一極集中型の社会も原因だし、規制緩和で幹線沿いに大型店ができたことにも起因している。おまけに都市開発で駅前に大きなロータリーを設け、商店街までの距離をわざと遠ざけた。そうなると人の流れが遮断されてしまい、駅で降りても商店街まで行かないようになってしまった。

ある地方都市の例だが、古くからの商店街を潰して大型ショッピングセンターを造ることになった。何年も前からその場所で営業していた個人店は、立ちのきを強いられ、その代わりにショッピングセンターに入る権利をもらった。華々しくオープンしたまではよかったが、安直にリーシングした店舗では、その魅力も湧かず、いつしか客は激減。中核を成す大型店は早々と撤退を決意した。そうなってくると、街に古くからあって常連客を有していた個人店は困る。箱がなくなるわけだから営業を続けてはいけない。かといって新たに店を持つかといえば、この不況下で資金ぐりにも苦労する。ということで、何代か続いた個人店は、看板を降ろさざるをえなくなってしまった。店がなくなった街は、今以上に衰退の一途を辿る。つまり地方都市の衰退を止める要素は何もなくなってしまったのだ。

全国似たりよったりの状況ではあるが、中には元気な街もある。そんな町を訪ねてみると、決まって舵を取る人物がいて、商店街の店主達がその方向へいっしょになって向かっている。阪急神戸線岡本駅近くに広がる岡本商店街は、シャッター街にならず、今でも街に活気が漲っている場所だ。この状況が今どき珍しいのか、色んな場所から視察に来るという。岡本には岡本商店街振興組合なる組織がある。商店街と名がつくが、アーケード型のものではなく、阪急岡本駅以南、JR摂津本山駅以北の街がその対象となっている。現在、理事長を務めるのは、和菓子店「沙羅樹」の木下紀代子さん、副理事長をイタリア料理店「アリオリオ」の松田朗さんが務めている。この商店街の凄いところは、企画力と行動力、それに各店主達が積極的に催しに参加していること。私も昨年から松田さんに誘いを受け、色んな企画に参加するようになった。そのひとつが、篠山(兵庫県篠山市)農産地域とコラボした商品開発だ。これは第一級の消費地と農産地が組むことで、他にないブランドを作ろうという試み。昨今、素材の安心安全は声高に叫ばれている。顔の見える生産地からモノを仕入れ、岡本らしい商品を造って売り出す。一方の雄を消費者と接点を持つ商店街が担っているのだから、いいモノさえできれば売り口は心配いらないというわけだ。これが地方で生産される御当地商品とは違う点。一般的なそれは、モノはできても売る所がない。完成してから「置いください」と言って営業をかけなければならない。その点、岡本商店街のパターンは、売り手が企画するわけだから、初めから消費者の反応具合を予測して物事が進められているし、売る店も自ずとある。

神戸産の野菜岡本・篠山コラボは「篠山のめぐみ、岡本の口福」というブランド名で食品が続々と造られる予定になっている。その第1弾として昨年12月にお目見得したのが「岡本コンフィチュール」である。コンフィチュールとは、ジャムのこと。仏語ではコンフィチュールとなり、英語ではジャムとなる。ただ昨今のコンフィチュールブームは、無添加で、苺や葡萄以外の他品種が素材として用いられていることが多い。「岡本コンフィチュール」も時代の流れを察知しているので、その手の条件はクリアしている。12月に発売したのは、「黒豆の枝豆」と「かぼちゃ」で、当然ながら、篠山の農家が産した野菜で造っている。篠山といえば、黒豆が有名だ。多分、読者諸氏は黒豆のジャムといっても想像がつきにくいだろう。素材が豆だけに「あんこを造っているのでしょう」と言う口の悪い人もいたが、実際できたものを味あわせてみると、「きちんとしたジャム!黒豆の味がしっかり残っていますね」と好評だった。かぼちゃの方は、パンプキンケーキの上の部分のような味わいといえばイメージできるのではないだろうか。ジャムを造る際に定番の苺や葡萄ではなく、こんな珍しいものからスタートするのが岡本商店街の面白いところであろう。夏前にはグリーンピースをジャムにした。これまたグリーンピースとジャムのイメージが結びつかないだろう。しかし、味わうと、まさにグリーンピース。これがスイーツになっているのだから面白い。岡本商店街振興組合ではグリーンピースといわず、和名のうすいえんどうと表記した。「うすいえんどうのコンフィチュール」、なんとなく高級ぽく、美味しそうな印象を受ける。現在、篠山のトマトを使ったコンフィチュール(ジャム)を試作中で、この原稿がアップする頃には商品化されていると思われる。岡本商店街が果実ではなく、野菜にこだわるのは、野菜の産地・篠山とコラボしているから。それに現代人の野菜不足を「これで少しでも補って」との意味も込められている。

自分の所のことだけではなく、北の地の復興も手助け

神戸産の野菜

岡本商店街が掲げる企画力は、このコラボだけではない。近くにある甲南女子大生と商店街ファッションショーをやったり、有名なパン屋が多いことからバーガーフェスタを催したり、サントリーと組んでフルーツブランデー流行化計画をぶち上げたりと、あの手この手で消費者を呼び込もうとしている。副理事長の松田さんは、「岡本商店街はよくあるアーケード商店街とは異なるため、住居と店舗が同じ場所にないのが特徴です。だから店主が高齢になり、店をやめたら次の借り手が入ってくる。シャッターが閉まったまま、そこに店主がいつまでも生活することはないのです。この入れ替わりが、街にマンネリ化をもたらさない。新しい店が消費者のみならず、既存の店主にも刺激を与えているのがいいのでしょうね」と言っている。その上、あの手この手の企画を立ち上げる。それがさらに刺激と活気になって街を盛り上げていく。

神戸産の野菜岡本商店街は、自分の街だけでなく、他地域にも刺激を与えようとしている。それはパートナーシップを掲げている気仙沼の商店街がいかにすれば再生でき、その手伝いを神戸の地ができるかと考えていることだ。神戸は阪神淡路大震災で多大な被害を受けた。その時の復興経験をふまえて東日本大震災の被災地を助けようと考えたのが発端。震災後、岡本商店街の人達が気仙沼へ赴き、何らかの手伝いをするようになった。それまで気仙沼とはコンタクトがなかったのだ。兵庫県が宮城県支援の担当だったために、県の職員から紹介してもらい、気仙沼へ行ったのが最初だという。これには頭が下がる。これまで協力関係にあった地ならわかるが、何の縁りもなく、単に被災地を元気づけたいという純粋な思いから始まっているからだ。岡本の街に「まただいん」なるショップが昨年お目見得した。これは気仙沼の商品を売る目的で、岡本商店街の人達が作った店舗である。ここで少しでも気仙沼産の商品を売り、被災地をバックアップしようと努めている。そして今年は気仙沼とコラボして岡本商店街オリジナルの商品づくりを始めるらしい。こうまでポジティブに活動する商店街があるだろうか。シャッターが閉まり、客足が途絶えたと頭をかかえるよりも、まず企画して動いてみる__、それが街の再生案だと岡本商店街は教えてくれている。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい