2024年02月
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 このコーナーで毎年報じているが、今年も「酒粕プロジェクト2024」が2~3月に関西の各店舗で催されるので、その企画と発表会について語ることにする。ご存知のように酒粕は、清酒を産する際に生じた副産物。もろみを搾り、液体になったのが清酒で、残った固体が酒粕だ。酒粕は「かす」と名がつくが、実は調味素材として使うと、味や香りにいい効果が出る。そればかりか健康要素をたっぷり含んだ日本のスーパーフードとも呼ばれているのだ。そんな酒粕が廃れて行き、昔からの和素材として魅力を失いかけたのが10年以上前。「このままでは酒粕文化がなくなってしまう」とばかりに、私が声掛けし、神戸酒心館が旗振り役を担って始まったのが酒粕プロジェクトである。今年は記念すべき10年目。「酒粕は調味素材にぴったり」と考えたシェフ達が集ってオリジナル作品を発表し、2~3月の二ヵ月間各店舗で提供してくれている。1月25日にその発表会が催されたので改めてこのコーナーなで紹介しておくことにしよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
酒粕プロジェクトが、10年目に突入。コラボ企画に、オリジナル料理満載で、寒い冬を熱くする!!

有名シェフがオリジナル酒粕料理を考案

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今年も酒粕プロジェクトの季節がやって来た。同催しは、薄れかけた酒粕文化の復活を願って毎年2~3月に色んな店舗で行うもの。約30もの飲食店や団体が参加し、1月下旬にマスコミ向け発表会を行い、それに伴い関西の参加店でオリジナル酒粕料理を提供する。本年度参加してくれたのは、「サヴォイオマージュ」「御菓子司 吉乃屋松原」「BARBARA MARKET PLACE中崎本店」「TOOTH TOOTH FISH IN THE FOREST」「TOOTH TOOTH ON THE CORNER」「紅宝石」「ホテル日航関西空港」「日本料理湯木」「キュイジーヌ フランコ ジャポネ―ズ マツシマ」「北新地ふじもと」「ごはんやTasuke」「Iℓ Teatoro」「膳所 旬重」「日本料理かわもと」「嗜酒」「グリルDAITO」「さかばやし」の飲食店。それにコラボ商品を造って販売する「有馬せんべい本舗」「六甲味噌製造所」「久遠チョコレート」の三つのメーカーも加わっている。あと漁業関係では漁師で構成する「東須磨サーモン部会」と、かの「明石浦漁業協同組合」も。そして「Mizkan大阪支店」や私の授業である「大阪樟蔭女子大学・フードメディア演習」も参加し、派手に二ヵ月間酒粕の良さをPRするのだ。
そもそも酒粕プロジェクトが始まったのは、市場に流れる酒粕が減ったのがきっかけだ。大手日本酒メーカーが高温糖化法(高熱液化仕込み)を導入したおかげで、酒粕の生産が減少した。そこに生活スタイルの変化なども伴い、昔ながらの酒粕料理が敬遠され、関西の家庭でも粕汁を作らなくなってしまったのだ。まさに関西に古くから根づく酒粕文化の危機である。
「酒粕文化の灯を消してなるものか!」。そう謳って始まったのが酒粕プロジェクトで、私がきっかけを作って色んな店舗に声掛けし、高温糖化法を用いていない灘の酒蔵・神戸酒心館に旗振り役を担ってもらい実施している。今でこそ大きなプロジェクトになり、神戸の冬の風物詩のようになりかけているが、企画した最初の年は、賛同する所も少なく、神戸酒心館「さかばやし」と有馬温泉「御所坊」とで酒粕鍋対決をやったという内容だった。その発表会に訪れた報道陣が初めて酒粕の地域性(調理利用するのは関西特有の文化)と健康的要素(糖尿病や高血圧などに効果的)を知り、多くのメディアで報じてくれたために一気にその機運が高まり、翌年から多くの店が参加するようになった。今では電話一本で集まる程で、発表会も溢れんばかりのマスコミ陣が集まる盛況ぶり。毎年冬になると、発表会をやり、二ヵ月間実施するものだから、TV・ラジオ・新聞・インターネットなどのメディアを通じて広く伝播され、いつしか酒粕のプチブームが到来してしまった。酒粕を温故知新のように取り挙げ、今では参加店以外にも多くの店が調理利用してくれるようになったのも、もとはといえばこのプロジェクトがきかっけ。おまけに酒粕=和食のイメージを打破し、洋や中、スイーツ、カクテルまで幅広く使われ出したのも酒粕プロジェクトでの事例の影響が大きい。

今年は、コラボ企画が一つの話題に_。

3_ケークサレ
4_サーモンと蕪の和え物
5_春節大根
6‗いなり
7_フォアグラ
8_さわら
9_コロッケ
10_サイコロステーキ
11_ようかん

ところで、今年は同プロジェクトが始まって10年目にあたる。記念すべき10回目だからと、最初の年に参加してくれた有馬温泉の老舗旅館「御所坊」が久しぶりに参戦してくれた。御所坊グループでは、コロナ禍が過ぎ去った今、インバウンド需要もあって忙しい。香港・台湾・韓国・シンガポール・タイなどアジア圏から多くの訪日客が来るそうだ。「御所坊」では、春節祭や旧正月に訪れる彼らに対して少しでも粋なおもてなしをしようと、新たな料理を創作することにした。金井啓修社長の目論見は、海外から来た客に少しでも和食に興味を持ってもらうこと。純和風の会席料理もいいが、そこに訪日客の国のエッセンスが入っていれば、より面白かろうと、中華と和食の融合を目指した。そこで酒粕プロジェクトメンバーの「紅宝石」李順華さんから御所坊グループの料理人(和食)が中華の作り方の伝授を受け、それに和のエッセンスを施して創作することにした。昨年、李順華さんから大根餅や翡翠餃子など中華の作り方を学んだ後、自店でそれを和食にアレンジして和中混合の一品一品を完成させて行ったという。
今回は、それをさらにグレードアップさせ、酒粕を加えながら創作している。担当したのは、御所坊グループの和風ホテル「花小宿」一階にある割烹「膳所 旬重」の松岡兼司料理長である。彼が考案した「酒粕プロジェクト2024」参加作品「春節大根 酒粕あんかけ」は、中華の大根餅と和食の風呂吹き大根を合わせたような一品。その二つを重ね、酒粕の和風ソースを掛けて作っている。「膳所 旬重」では、この一品を春節祭・旧正月向けの料理として提供し、アジア圏からの客のおもてなしにと考えているようだ。料理を担当した松岡料理長は「昨年、李順華さんに教えてもらって旅館で試してみましたが、自分的にはもう一つ満足のいく出来ではなかったので、今年再挑戦しました。和食の食材である酒粕が入ることでうまく融合できたのでは…と思います」と語っている。
さて、「酒粕プロジェクト2024」では、松岡さんの「春節大根 酒粕あんかけ」を筆頭に計11作品が1月25日の発表会でお披露目された。下記は、発表会で出た料理を提供順に記しておいたものだ。
①粕香~kasuga~(サヴォイオマージュ)
②神戸元気サーモンの酒粕ホワイトソース掛け(北新地ふじもと×東須磨サーモン部会)
③酒粕とマッシュルームのケークサレ(ホテル日航関西空港)
④サーモンと蕪の自家製味噌を使った奈良漬け風和え物(ごはんやTasuke)
⑤春節大根 酒粕あんかけ(膳所 旬重)
⑥酒粕稲荷と天ぷら(大阪樟蔭女子大学×さかばやし)
⑦フォアグラのテリーヌと酒粕のフォカッチャ(Iℓ Teatoto)
⑧浦サワラの吟醸粕漬(明石浦漁業協同組合×さかばやし)
⑨里芋とクリームチーズの酒粕コロッケ 菜の花ソース(嗜酒)
⑩牛肉のサイコロステーキ 梅肉酒粕和えとらっきょ酒粕和え(紅宝石)
⑪ホワイト純米吟醸かん(御菓子司 吉乃屋松原)
いずれもオリジナリティ溢れる酒粕料理で、オーソドックスなものは一つとしてなく、ひとひねりもふたひねりも加えた秀逸作品ばかりだった。「紅宝石」の李順華さんは、11月ぐらいに私が店を覗いた時にすでに色々と研究し、幾つかの料理を作っていた。そのうちの一つは、平目に酒粕と刻んだにんにくを載せて蒸した料理だったが、にんにくのクセと匂いが酒粕で軽減されて実にいい組み合わせのように映っていた。私が「これで発表会に出したら」とその時は言ったのだが、後日、浦サワラや神戸元気サーモンなど魚が幾つか出ることがわかり、「肉でやってみて」と再注文したから当日はガラリと一変させ、牛肉サイコロステーキを用いた料理になっていた。全く違った料理で勝負を挑んで来たが、李順華さんの面白さは自分の苦手を酒粕で消したことにある。先のにんにくの匂いを酒粕で軽減させたように、らっきょの独特のクセを酒粕で出ぬように工夫した。壇上で李順華さんは「僕はらっきょが苦手なので…」とその工夫理由を述べていた。流石は一流料理人らしく、あえて苦手食材を用いて酒粕の良さを引き出したわけだ。
すべての料理に説明を加えたいが、スペース的に膨大なものになりそうなので、やめておき、あとは写真から想像してもらうことにしよう。いや、各店舗で2~3月に提供しているのだから、ここは予約を入れて食べに行ってもらいたい。ただ一つ、説明を加えておくなら明石浦漁協と「さかばやし」のコラボ作品「浦サワラの吟醸粕漬」であろう。明石浦漁協は、すでに全国区の知名度があり、東京の料亭あたりでも「明石の魚は旨いから」とそこで水揚げされた魚介類を使いたがる。明石で有名なのは、鯛・タコ・海苔で、同漁協では「凧(タコ)に乗り(海苔)たい(鯛)」と覚えてほしいと三つのブランドを紹介している。明石浦漁協がそれらに続くブランド魚として四年前からPRしているのが浦サワラである。10~12月中旬までに水揚げされる鰆のうち、脂乗りのいいものを“浦サワラ”と称して出荷している。専用の機器を使用し、魚体をカットせずに脂肪分を測定する。脂肪率5%以上が「上旨」で黄色のタグを付け、10%以上を「特上」として赤色のタグを付けて競りに掛けて出荷しているのだ。この浦サワラの美味しさに目をつけたのが、神戸酒心館の蔵の料亭「さかばやし」である。「さかばやし」では、12月に明石浦漁協から浦サワラを直接買い付け、「福寿」純米吟醸の酒粕で漬けて「浦サワラの吟醸酒粕漬」として冷凍保存した。それをあえて同プロジェクト期間中に限定メニューとして提供する計画になっている。浦サワラ自体が高級品なのでなかなかの値うち品になると思われる。しかも漬けている魚体数が少ないとあらば尚更で、瞬殺のように売れてなくなるかもしれない。
このように数量限定、提供日限定のものもあれば、2~3月にグランドメニューとしてずっと提供する品もあり、はたまたコース料理内に酒粕を用いた料理を一つ挿入するという所もある。それはそれで各店舗の個性だと思って聞いている。要は、酒粕をうまく使ってメニュー化し、提供することで酒粕文化復活の一助になればいいのだから…。

 

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