41 2016年08月京阪守口市駅直結の「ホテル・アゴーラ大阪守口」。守口といえど、淀屋橋から急行で10分もかからないので、大阪の街中からもすぐに行ける。今回は、このホテルのダイニング「Sizzling」に醤油と味噌を持って行き、取材を敢行した。「どんなものを用いようともフレンチの技法で作ればフランス料理」と言う西原シェフがその取材対象だ。大阪のホテルで長年培ってきた技術で彼はいかに和の調味料を用いて調理したのであろうか。私が食べて来た二品について言及する。

Sizzling
(シズリング)
料理人/西原民生
(ホテル・アゴーラ大阪守口 Sizzling料理長)
「生一本黒豆は、香り高くて味が
しっかりしている醤油。
濃い味で、深みがあり、酸味もあ
るので、使いすぎると勝ってしま
う嫌いがありました。だから少し
煮切ったものをソースに数滴垂ら
したんです。こうすることで素材
同士を緩和させる役目が生まれ
たんですよ。」

守口市駅前の眺めのいいレストラン

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京阪守口市駅前にある「ホテル・アゴーラ大阪守口」は、全国各地に宿泊施設を展開するアゴーラ・ホテルアライアンスの系列で、関西では守口と堺(ホテル・アゴーラ リージェンシー堺)に施設がある。守口にある同ホテルは、京阪の守口市駅と直結しており、大阪の街中(淀屋橋)からでも10分もあれば到着する。このホテルには、「the LOOP」「麗花」「こよみ」「Sizzling」「fagot」と色んなスタイルの飲食店があるのだが、今回はこの中のうち「Sizzling(シズリング)」の話をしよう。
ホテル最上階に位置する「シズリング」は、三つの顔を持つ。一つがコース料理を楽しめるダイニングコーナーで、一つが鉄板焼、さらにもう一つがバーである。ホテル企画担当の一色薫さんの紹介によれば、「食事を楽しんだ後にラウンジやバーを使い、ゆっくり過ごすお客様も多い」そうだ。同店は旬の野菜をふんだんに使ったカリフォルニアキュイジーヌがコンセプトで、その名の通りシズル感溢れる料理と酒が売りである。
12階にあるからか、眺めはすこぶる良く、京阪守口市駅が眼下に臨め、守口の街が一望できる。以前、バーの話を書くために訪れた折りには、同店のバーテンダー・八島隆弘さんが「午後8時頃になると、伊丹空港へ向かう飛行機がラッシュアワーの如く続々と連なり、その光が『シズリング』の窓から見られてきれいです」と話していた。残念ながらその時間帯に訪れたことがないので、壮観さは体験していないが、窓の広さからしても長めの良さは想像がつく。できれば「シズリング」でディナーを楽しむか、このバーで一杯飲るかしたいものだと常々思っている。

 

 

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「シズリング」のダイニングコーナーを担当するのは、西原民生シェフ。この4月から「シズリング」の料理長を任されたので、ようやく同店の料理も西原色が出て来た頃かもしれない。前出の一色さんも「コース料理とコンセプトの先にあるのがカリフォルニアキュイジーヌ。このアイテムは自由がテーマ。何かに固執するわけではなく、世界各国の技法を使えるので、西原シェフは自分の色が出しやすいと思う」と話していた。西原シェフ自身も「あまり薀蓄は言いたくない。食べて旨いのがいい」とまさしくストレートで、美味しいものならどんなものでも出したいとは頭も柔らかい。
昨今は本場フランスでも味噌や醤油が用いられている。海外によく旅する人によれば、「今やソイソースではなく、ショウユで通じる」らしい。それだけ日本料理が国際化して来た証しだろう。そういえば、湯浅醤油の「生一本黒豆」もベルギーのミシュラン店使われているのだ。西原シェフにその辺りの話を聞くと、「私はフレンチの技法を用いて作ればフランス料理だと思っているので、醤油や味噌が和の調味料だとの認識はありません。若い時(昔)ならともかく、今は関係ありませんよ」とすんなりと湯浅醤油や丸新本家の商品を受け入れてくれた。「中華は匙加減や勘に重きを置くことがありますが、フレンチは理論的。仏語の動詞を使いわけて作る料理なんです」と話していた。

魚料理に醤油、肉料理には味噌

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さて、そんな西原シェフが「生一本黒豆」や「梅金山寺」を使って作った。以下のフランス料理がそれである。一つは真鯛のポアレで、もう一つは仔牛のフィレ肉。前者には「生一本黒豆」を、後者には「梅金山寺」を用いて調味している。
まず、魚料理は真鯛を焼き、そこにフォアグラバターのソースをかけた。このソースは、牛すじで旨みを出し、昆布を煮出したフォンにフォアグラバターを加えて乳化する。そこに少し煮切った「生一本黒豆」を数滴垂らし手仕上げているのだ。このソースを真鯛の周りにドレッシング感覚で流し、ルッコラをサラダ仕立てのように散らしてトマトのサルサを載せる。西原シェフ曰く「テーマが醤油なので、それに合うものを集めた」とのこと。ソースのベースもそう、醤油と合うようにと、牛すじで旨みを出している。「魚料理に醤油を用いようと考えた時、ストレートに使うと刺身のイメージになりますよね。それだと流石に面白くない。だし汁(フォン)に昆布を入れると、合いやすくなります。牛すじから摂ったもの(フォン)なので魚とケンカしてしまう。だから昆布のだしに少量に醤油を差すことで、その関係を緩和させたんです」。旨みが凝縮したもの(ソース)をさらっとかけると、鯛の味が引き立つ。それを狙って調理したのであろう。「生一本黒豆は、香り高い醤油で味もしっかりしています。個人的な感想かもしれませんが、私はこの醤油に微妙な甘みを覚えました。九州出身なので醤油の甘さには慣れてはいますが、それと違った若干の甘みを評価したわけです。酸味や深みが出ており、クオリティも高いのですが、かけすぎると、勝ちすぎてしまうと思って少しだけ垂らすことにしたんです。煮切ったのは角を取るため。このようにすることでうまくフレンチにマッチしました」と言う。西原シェフは「調和を考えて料理をします」と何度も話していた。煮切った醤油を数滴垂らすことで、その調和が完成する。和の調味料を用いてフランス料理の技法さえ守っていれば歴としたフレンチになる。その模範ともいうべき一皿であった。

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肉料理の方は、一転して金山寺味噌のストレートな味が出たもの。仔牛の方が淡泊だからと仔牛のフィレ肉を用いたそれは、肉の上に味噌を用いたソースを塗って仕上げている。「梅金山寺」を叩き、粒々感を残してオランディーズとクリームを加えて焼き上げる。金山寺味噌は甘みが強い。それが効果的で旨みへと繋がる。淡泊な仔牛のフィレに足して、味としては二で割っている手法だ。「本来なら豚や鴨の方が金山寺味噌に合うのでしょうが、今回はあえて仔牛で試してみました」。これが西原シェフの言う調和の表し方なのであろう。「金山寺味噌は、自分では作ることができないので、すぐに思いついた」と言うが、すんなり出来たにしては、面白い。付け合わせは、「絵柄で考えた」と言う通り野菜をボード上に並べたもの。シェフの言葉を借りれば“小さな宝石”だ。
以前、このコーナーで誰かが話していたが、はやり丸新本家の金山寺味噌は完成品である。誰もが「この味自体が好きで、ご飯に載せて食べるのが一番いい」と言っている。西原シェフも「卵かけご飯にバターを用い、そこに『梅金山寺』を載せたい」と語っている。氏曰く「バターが合う」ようで、だから白ワイン、酢、卵、バターで作るオランディーズ(酸味のソース)と合わせた。「金山寺味噌を煮出し、液体にしてスープにするという発想は私にはありません。やはり使い方は、そのものが持っているようにディップか、つけ焼きなんですよ。」
この日は、くしくもアイドルタイムにお邪魔し、私だけのスペシャリテとしてこの二品を作ってもらった。まだ陽は高い。オープンまでは少し時間がある。このまま「ホテル・アゴーラ大阪守口」に留まって「シズリング」でディナーを食べて帰ろうかと思案した。でもせっかくシェフのコースを食べるなら、それなりにお腹の準備(空腹)をしておいた方がいいだろう。思案の結果、このまま帰ることにした。「シズリング」のディナーは、暫しおあずけである。

  • <取材協力>
    Sizzling
    (シズリング)

    住所/大阪府守口市河原町10-5

    TEL/06-6994-1185

    HP/ 公式HPはこちら
    Sizzling(シズリング)

    営業時間/レストラン受付 9:00~19:00
    平日 11:30~15:00 18:00~21:00
    土日祝 11:00~15:00 17:00~21:00

    休み/無休

    メニューor料金/
    ランチ   2570円~
    ディナー  6000円、7560円、10800円
    ペアコース 16000円(2人分)
    ※価格は全て税込・サ別



    アクセス/守口市駅より徒歩一分

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい