2016年09月
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 テレビや雑誌でやたらと“燻製”という文字が躍っている。アウトドアも一時期のBBQ一辺倒から変化したのか、燻製をする人が多いと聞く。現にサクラのチップやウイスキーオークのチップは色んな所で売られており、燻すのに便利なスモークウッドは品切れ状態が続いているようだ。そんな燻製ブームに目をつけたわけではないが、有馬温泉で燻製企画を試みた。題して“有馬の夜会”。旅館のバー(御所坊)や金の湯前のバールで、オリジナル燻製とウイスキーのマリアージュを楽しむことで、有馬温泉の秋の夜長を活性化しようというのがその目論見。今回は9月2日~12月10日まで行う有馬の夜会についての話をしよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
燻製とウイスキーで有馬の夜を楽しもう。
温泉街の夜長には、なぜか燻製がよく似合う!?

燻製が静かなブームを呼んでいる

IMG_4895 燻製がブームになりつつある。某専門家に聞くと、その波はじわじわと来ていたそうだが、ここ数年で自分でやる人が増えて今や燻製流行りに。そのせいか、巷のショップでは、スモークウッドが品切れ状態になっているという。ネットで“燻製 流行”と検索してみると、素人がやり出したというブログが沢山アップされており、その中でも湯浅醤油の「燻ししょうゆ」が大々的に取り挙げられていた。中には「2016年のブームはこの品だ」とばかりに燻製調味料のことが書かれていて、当然のように「燻ししょうゆ」の写真が掲載されている。
「燻ししょうゆ」が世に出たのは2015年。燻製の世界では名を馳せるエンジの輿水治比古さんと湯浅醤油がコラボして造ったものだ。なのでこの醤油は風の仕業と湯浅醤油のWブランド品になっている。私もこの醤油のマスコミ発表会に絡ませてもらったのだが、雑誌、テレビ、新聞などの業界人を輿水さんの「燻」に招いて開催したプレスディナーは、実に好評を博したものであった。あまりの反響の良さから大阪で同様の発表会を計画していたのが、品切れのために中止になってしまったくらいである。同商品については、ここでくだくだ語るより湯浅醤油のHP内の紹介を読んでもらう方がいいだろう。かくして湯浅醤油も燻製流行の一端を担っていたわけである。

IMG_4956 さて、私めの話は有馬温泉へと飛ぶ。1191年創業の老舗旅館「御所坊」では、いずれ定番商品にしたいと燻製料理を模索していた。有馬里駐車場で温燻と冷燻ができる大きな燻製機を設置し、調理場のスタッフがいつでもそれを駆動できるように準備をしていた。ここに私の企画が乗ったわけである。
「御所坊」の金井啓修さんの話では、かつて有馬では「トアロードデリカテッセン」の工房があってそこで天皇家御用達のスモークサーモンなど様々な燻製商品を造っていたそう。金井啓修さんも同社の社長(故人)から明石の天然の鯛やタコなどを燻してもらい、試食した経験があった。そんな少なからぬ燻製の繋がりをいかしてスモーク商品(メニュー)を作りたいとかねてから思っていたそうだ。数年前からヒットの兆しを見せつつある燻製は、バーが中心となっており、やはりウイスキーに合う料理としての取り挙げ方が多かった。それにアウトドア派が加わり、今のトレンドになっていったのだと思う。くしくも「御所坊」では金の湯の前に繁昌店(バー・ニュールンベルグ)を持っており、そこで有馬の立ち呑み文化を培ってきた。そんな流れから、そのバールにて燻製で一杯をと絵を描くのも面白かろうと考えたのだ。

燻製とウイスキーで秋の夜長の楽しみ方を提案したい

IMG_5002   有馬温泉は、数年前から泊食分離を謳い、人が回遊しない温泉街は衰退するとばかりに湯元坂を中心に色んな飲食店がお目見得している。ところが、それも昼間が主で多くの店は夕方には閉めてしまう。私と金井庸泰さん(金井啓修社長の次男)が考えたのは、有馬の夜の楽しみ方であった。「御所坊」のバーは、旅館内にあるものの、一般客が外から入るのも可能。つまりどこの旅館にもありがちな宿泊客のみのバーではなく、一般客と宿泊客が融合できる店なのだ。
そんなスタイルの「バー・ポッソドウロ」と金の湯前に位置するバール「バー・ニュールンベルグ」で燻製メニューを企画し、サントリーのウイスキーと合わせて有馬の夜の楽しみ方の一つとして企画したのが“有馬の夜会”。期間は9月2日~12月10日まで。寒くなる前まで本企画を開催し、有馬の秋の夜長を堪能してもらうとの考えである。
そこで肝心要となるのが燻製。燻したなら何でもOKでは面白くなかろうと、ある名人に白羽の射を立てた。その名人とは、燻製道士の異名を持つ、ネット界での燻製の達人。ネットでは「スモークといえば、燻製道士」と言われるぐらい有名で、彼のブログ「燻製記」は多くのフォロアーを持つ。おまけに世界文化社(出版社)から「男の手作り燻製」や「手作り燻製ハンドブック」まで上梓している。彼の話では、色んなメーカーから製造に関してアドバイスが欲しいと声がかかるらしい。正体は明かせないが、私とは古くからのつき合いで、クリエイティブ的にも話が合う。そんな燻製道士に話を投げると、二つ返事でOKしてくれた。

IMG_5010 それなら「バー・ポッサドウロ」と「バー・ニュールンベルグ」で燻製道士のレシピを使ったオリジナルの燻製を提供し、「白州」や「ラフロイグ」などのウイスキーと合わせるのがいいだろうと絵を描いた次第である。燻製道士が作ってくれたレシピは、①はちみつ味噌鶏の燻製②ハッセルバックポテトの燻製③はちみつ山椒ベーコンの燻製④山椒チーズの燻製⑤厚切りポテトチップスの燻製⑥燻製ハニーナッツ⑦汐湯玉の燻製⑧ニュールンベルガーソーセージのハーブ燻製⑨ちりめん山椒の燻製の9種。山椒が多いのは有馬=山椒といわれる地の特性をいかしたから。そのうち⑦~⑨までは「御所坊」縁りの品を燻してほしいと依頼されたものだ。ニュールンベルガーソーセージとは、バール(バー・ニュールンベルグ)のオリジナル商品で、ビールに合うように設計されたソーセージだ。一方、汐湯玉とは、有馬温泉(金泉)に浸けた卵を指す。一般的に温泉玉子は、60~70℃で白身が固まってできるが、有馬温泉は90℃以上あるのでそれを通り越して固ゆで玉子になってしまう。それに金泉は塩分が多く、海水の倍の塩辛さがあるために塩の入り方も難しい。そんな塩湯玉を燻製化しようというのだからユニークである。
こんな風にウイスキーと燻製のマリアージュが完成し、自由に出入りできるバーでの提供が適うと、有馬の夜の過ごし方を一つは提案できると思われ、それがいずれは温泉街の活性化になればいいと考えている。この原稿を記している時点では、燻製道士の試作&レクチャーが終わった頃、一週間後のマスコミ発表会を待つばかりとなっている。さて、燻製商品は、今後有馬で根づくのであろうか。12月10日まで行われる“有馬の夜会”の結果を待ちたい。

●バー・ニュールンベルグ
金の湯の向い、有馬玩具博物館下にあるカジュアルなショットバー(バール)。名物のニュールンベルガーソーセージを始め、軽食もあり。気候のいい季節はオープンエアで、お酒やドリンクが楽しめる。湯上りやハイキング、山登り帰りに一杯飲る姿が目立つ。
住所/神戸市北区有馬町797 有馬玩具博物館1F
TEL/078-904-0551(御所坊)
営業時間/10:00~21:00
休み/無休

●バー・ポッソドウロ
「御所坊」内にあるバーだが、川沿いの道にも扉があるので一般客も利用が可能。黒を基調にしたオシャレなバーで、高級感溢れる設えの中でお酒が味わえる。酒のラインナップは、ウイスキー、ワイン、吟醸酒など。今回は燻製とウイスキーをセットにしたメニューも登場。
住所/神戸市北区有馬町858 御所坊1F
TEL/078-904-0551(御所坊)
営業時間/21:30~23:00LO(休日前は23:30LO)
休み/不定休

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい