45 2016年12月いい師にはいい弟子が育つという。最近、人気の玉造の割烹「寺田」は、心斎橋の「桝田」で修業した寺田繁さんが立ち上げた日本料理店。師匠の桝田兆史さんの薫陶を受けて育ったからか、季節感を持たせた王道和食を提供している。師の店同様、今では予約を取りにくい店に、おまけにミシュランの星付き店にも選ばれた。これからますます人気が出るに違いないだろう。そんな店でもいつものア(・)レ(・)をやって来た。私の我がままぶりはもはやとどまる所がない。今回、寺田さんが私のために考えてくれた二品をとくとご覧あれ。
日本料理 寺田
寺田繁
(日本料理 寺田 店主)
「オリーブと金山寺味噌の出
合いなんてまさに衝撃的。味
の幅が広がるだけでなく、
味噌感をオリーブが上手に
まろやかにしています。この
オイリーな調味料をなめ味噌
にせず、料理屋らしく用いて
みました」
オープン一年強ですでに予約で満席の店に
JR環状線玉造駅からすぐの場所にある「日本料理 寺田」は、今注目すべき割烹。小ぶりな店ながらも連日予約で満席状態。取材で訪れた11月には「もう年内は予約が取れません」と言っていたほど。この店が人気があるのは会席料理の内容の充実さ。夜のコースは7000円、10000円とある(15000円もある)が、ともに8~9品ぐらい。中でもメインとなる八寸は、その目を見張る美しさである。味も確かで、この品を食べるだけでもわざわざ玉造まで出かけて来た価値があるというものだ。店主の寺田繁さん曰く「主は女性層。そこを意識した献立づくりに徹しています」の言葉には納得がいく。殊に昼コース(3800円)は人気で、あまりの盛況ぶりにできて1年強なのにすでに予約が取りにくい店の部類に属してしまっている。ミシュランでも星付きになったそうで、尚更人気が出て来るのではないだろうか。
2015年7月にオープンした「寺田」は、かつて心斎橋の人気割烹「心斎橋 桝田」で働いていた寺田繁さんの店である。彼の師匠である桝田兆史さんの店(心斎橋 桝田)は、これほど人気がある日本料理店が他にあるのかと思うぐらい賑わっている。カウンターと座敷の陣容でそんなに大きくはないが、ほぼ予約で詰まっているのだ。“ほぼ”と書いたのは、予約以外でも行けるというのではなく、かなり長い先まで予約が入っているという意味。ドンと出て来る八寸が人気で、これまた女性を魅了している。そんな「桝田」出身だからだろう、「寺田」の料理もその流れを汲んでいる。「オヤジさんの料理は、季節感を大事にしたいもの。今では年中何でも揃いますが、冬に決してキュウリやトマトを使わないといった具合に旬や季節をわかりやすく表現しているんですよ。お客様を楽しませるのが『桝田』の料理で、大ぶりの八寸にはそれが詰まっています」と寺田さんは言う。
寺田さんもいい意味で師匠の料理表現を継承しており、それがストレートに評価され、今の人気に繋がっているのだ。「師と弟子なので似せようと思わなくても似て来るのは仕方ないこと。それでも調理する人が変わっているのだから違いも自ずから出ています」と話す。料理の最後に抹茶を点ててくれるのが「寺田」の特徴。自身が茶の湯の勉強をしているためにそれをうまく使っている。夏にはこれがかき氷に代わる。客前でかき氷を作るのは、まさに「寺田」流。生来、寺田さんは人を楽しませるのが好きで、料理+αのα部分に差別化があると考えている。なので客前で抹茶を点てたり、かき氷を作ったりする。「バターケースを和食器に作り変えて炙った戻り鰹を入れたりしています。軽い瞬間燻製のようなものですね。お椀の蓋の裏に月を描いてもらい、そこに橇(そり)に乗ったサンタクロースの絵を加えてもらいました。それを12月の椀物の器に用いると面白いでしょ」と言う。時には鳥の形をした取り皿がないかと思い、探してもなかったので自分で作ったそうだ。全ては少しでも楽しんでもらいたい一心でのオリジナリティである。
おもてなしには変化球は投じるが、料理は本格派。創作は悪いとは思わないが、ぶれたくはないと話す。師匠譲りの技に、これからどんどん寺田さんの変化球が加わっていけば、いずれはここでしか表現できないオリジナリティが如実に出て来るだろう。そして献立の一品一品は、まさに王道。だからいいのだと私も味わって思った。会席の中でやはりメインは椀物。だしの旨さが料理人からの挑戦状であるからだ。でもこれはかなり和食慣れした人(会席料理によく行く人)でないとわからない。だからわかりやすい大ぶりの八寸で表現する。それでいいのである。
変化球的に調味料を使ってみた
さて、今回もおなじみのアレ(・・)(私だけのスペシャリテ)をやっている。あらかじめ寺田さんに湯浅醤油と丸新本家の商品を渡しておき、それを用いた二品を提供してもらう約束を取った(これはあくまで取材用のメニュー。「寺田」には月替わりのコースしかないので食べたいからと思っても普段はダメである)。寺田さんはその中から「オリーブ金山寺味噌」と「燻ししょうゆ」を選んで使っている。
「オリーブ金山寺味噌」を用いた一品として出て来たのが「平目の薄造り」。本来なら造りだと醤油が出てくるが、そこは寺田さんの変化球_、金山寺味噌で食べるように考えている。「醤油代わりに味噌を用いました。金山寺味噌の変わった造りの食べ方の提案です。味噌には旨み成分(グルタミン酸)があり、魚にはイノシン酸があります。掛け合わせてその相乗効果を狙ったんですよ」と説明する。
丸新本家の「オリーブ金山寺味噌」はそのままでもいいが、料理人として芸がなかろうと思い、入っていたオリーブを叩いて潰したそうだ。ミキサーだと潰しすぎるのであえて包丁で叩いた。ペーストにしてしまうと元も子もないので少し残るぐらいに仕上げている。それに吸物ぐらいのだし(うどんだしぐらい)を加え、とろみをつけたあんのようにし、味噌と混ぜる。こうすることで漬け味噌が主張せず、食材といい塩梅(あんばい)になるという。
平目によく合い、味噌が邪魔せず魚の淡白な味をうまく舌に伝えている。縁側部分はさらに合い、添えられたうにはもっと合う。ねっとりした部分がある方が金山寺味噌にマッチしやすいのだろう。
「味噌とオリーブの相性がマッチした商品ですね。蓋を開けて味見したとたん、ここにオリーブを入れるのか!と驚いたんです。よくこんな発想が出たなあって…。オリーブと味噌が衝撃的な出合いをした調味料です。味噌感をオリーブの味が上手くまろやかにしています。この商品自体がかなりの変化球だと思いました」と寺田さん。こうして造りを食べると、合わせるのは日本酒は勿論、ワインでもいいだろう。
二つの品は、「燻ししょうゆの炊き込みご飯」。具は貝柱と三ツ葉、刻んだ薄あげ。これを「燻ししょうゆ」、鰹だし、みりんで味付けして炊いている。「燻ししょうゆ」はそのままだと濃くなるのでだしと合わせ、手でほぐした貝柱に味を含ませてから炊いている途中に挿入する。貝柱は別段味付けなくてもいいが、控えめに調味しているので物足りなさをなくすためにあえてそうしているらしい。
炊き上がったご飯には、燻し感は消えている。聞くと、醤油を強めると、会席の中でバランスが狂ってしまうとのこと。むしろ貝の生臭さ(独特の匂い)を消す役割を「燻ししょうゆ」に演じさせたいという。初めて「燻ししょうゆ」を手にした時、「やはり使用するなら魚介類かな」と思い、香り(燻製香)のついた醤油を貝柱に使ってみたいと考えたそうだ。「この醤油は味が強くなく、角がないのが特徴ですね。うちでも土佐醤油を造りに添えますが、それと同じような感覚があるなと思ったんです」。燻製香を持つ醤油は、貝の匂いを消すだけではなく、プラスαの旨さを出してくれた。寺田さんの「ゼロじゃなくプラスになる調味料」とは見事な表現である。
前述したように「寺田」の料理は王道である。「本線をぶらさず、変化球を時たま用いたい」とは、まさにこの二品が表わしている。駅前物件で、市場や住居からも遠くない所を探したら今の場所に当たったとの理由から玉造に店を構えた。キタやミナミのような繁華街ではないのに十分勝負できている所以は、彼の料理にあることは間違いない。「あの店はコレがあるから行きたい」と思わせるような、迷わせない店にしていきたいと寺田さんは思いを語る。「桝田」仕込みの料理哲学と、彼のもてなしの精神があればそれも可能だろう。いや、もはやそれが明確化しているから予約が殺到しているのだと思われる。玉造に「寺田」あり_、そんな言葉が巷で囁れる日も近い。
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<取材協力>
日本料理 寺田
住所/大阪市天王寺区玉造元町2-35 玉造末広ビル2F
TEL/06-6191-3237
HP/ 公式HPはこちら
営業時間/営業時間/11:30~14:00(13:00LO) 18:00~22:00(20:00LO)
休み/月曜日・火曜日昼
メニューor料金/
メニュー/昼コース 3800円
夜コース 7000円
10000円
15000円
筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。