50 2017年05月寝屋川市駅(京阪)の西に「ルッカ」なるトラットリアがある。テーブル4つにカウンター6席という程よい大きさの店で、4000円ぐらいあれば飲み喰いできると評判。一般論として、都心では本格的なものを提供してもウケるが、ベッドタウン的な沿線都市ではそうもいかず、伊料理といってももどきが多い。ところが「ルッカ」は、沿線都市にあっても本格仕様。店主・芝政和さん自身が手間を惜しまぬ姿勢なので、あの手この手で面白いものを作り出している。寝屋川にして本格的で、しかも気軽なスタイルで食事が楽しめる伊料理にいつものアレを持ち込んだ。伊料理の職人はいかに和の調味料をイタリアンに変えたのだろうか。とくとご覧あれ。

Trattoria Lucca
芝政和
(トラットリア・ルッカ店主)
「白みそは使いやすい印象を受け
ました。甘さと辛さが丁度よく、
かといって主張しすぎることはない。
味がうまくまとまるので、和の
ものなのに十分、伊料理に使える
と思います。」

手間暇かけて手作りする料理が評判

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京阪・寝屋川市駅から4~5分の所に地元で評判のイタリアンがある。「Trattoria Lucca」といい、2014年にオープンした店で、芝政和さんが営んでいる。芝さんは、街の洋食屋に憧れを抱いていたらしく、ハンバーグやオムライスを作る夢を見ていた。ところが専門学校時代に伊料理に目覚め、地方色が強くて日本人好みの料理があるイタリアに惹かれたようだ。街の洋食屋やカフェでいったん働くも、その思いは次第に強くなり、イタリアへ武者修行に出かけている。店名の「ルッカ」は、彼が料理を学んだ地。トスカーナ州北西部の都市で、周囲4㎞の城壁で囲まれた中世を偲ばせる城塞都市として知られている。芝さんは、その町で伊料理を習得すると同時に日本の素晴らしさも実感した。離れてみて郷土愛を知ったというところか。帰国した彼は、伊料理店やホテル、ベーカリーレストランで勤め、最後の店では料理長にもなっている。実は芝さんは、高槻の出身。本来ならなじみのある出身地か、働いた神戸で独立するはずが、なぜか縁りのない寝屋川で店を持った。理由を聞けば、「このビルのオーナーと知り合ったから」と言う。深い理由はわからないが、余程この物件が気に入ったのかもしれない。
寝屋川は小さな市で、その中に伊料理店は5件ほどあるらしい。私の友人で食の通販会社「いただきますねっと」を営む杉森史明さん(寝屋川の住人)に言わせると、本格的なものはほとんどなく、「ルッカ」がきちんとしたものを出している店と評している。「ルッカ」は、伊料理店の分野ではトラットリアにあたる。同種のものは、イタリアでは大衆向きのレストランを指す。なので「ルッカ」も肩肘張らないカジュアルな店だ。芝さんも「好きなものを取って皆でわいわい飲るのがここのスタイル。イタリアの町の食堂的な感じで楽しんで欲しい」と話している。「ルッカ」には「パスタコース」(1200円)や「ランチコース」(1900円)など簡単なコースはあるが、スタイルとしては、あまりコース料理をやりたくないのだとか。そのこころは、どうしても店のお仕着せのようになってしまい、嫌いなものまで中に入ることもあるから。それよりは自分の食べたいものだけを味わってもらう方がいいと考えている。

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「ルッカ」の料理で目立つのは、「特製の前菜の盛り合わせ」(2人前1800円)。杉森さんも「ぜひ食べて欲しい」とイチ押しのこの一皿は、かなりボリュームがある。料理が8種以上あって全て手作り。季節感を醸し、その時々ごとに盛っているものも異なるようで、ハムも自家製なら、野菜も無農薬のものが多く、シェフのこだわりが感じ取れる一品になっている。「ルッカ」では、まず初めにこれを注文し、ビールやワインを飲るのが基本スタイルらしい。定番パスタに「天使の海老トマトクリームソース リングイネで」「色々野菜のペペロンチーニ」「ボロッとお肉の特製ボロネーゼ」「自家製ベーコンのカルボナーラ」などがあり、人気のメインディッシュに「若鶏のコンフィ」「豚肉のグリル マスタードソースで」「本日の新鮮ポアレ」など。特に「若鶏のコンフィ」は、淡路島産の鶏を低温で5時間煮て作ったもの。大きな骨付きもも肉で、柔らかくなるように仕上げている。メインはいずれもボリューミー、芝さんによると「4000円ぐらいあれば飲んで食べて楽しめる」そうだからメインのボリュームも考慮して注文したい。
芝さんは、今後ラザニアに注力したいと考えているようだ。これまでラザニアは1~2月限定で出していた。ホウレン草を練り込んで緑のパスタにし、ズワイ蟹を用いてベシャメルソースで味わうそれはなかなか好評で、今後は夏には茄子を、秋にはキノコを使ったりしながらバリエーションを持たせて通年メニューにしていくそうで、ソースも替えながら「ルッカ」らしい本格的なものを出したいと話していた。「カルボナーラはどこでも食べられるから、メニューに入れなくてもいいと思っていたんですが、お客様からも要望もあるので作っているんです。わかりやすいメニューは必要なようで・・・。できたら私は変わったものを食べて欲しいんですがね」と芝さんは言う。流石は料理好きの職人然とした人で、「ルッカ」らしさを常々考えている発言だ。手間暇かけてを実践しているからここの料理は面白い。多分、これからはラザニアが名物パスタになっていくと思われる。

 

和の調味料を使いながら、伊料理へと傾けていく

 

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私がこのコーナーに「ルッカ」を取り上げようと思ったのは、1から10まで手作りしたいとする芝さんの姿勢。話を聞いて料理を味わっているだけでも自身がかなりの料理好きだとわかる。料理人だから当然と思うのは間違いで、来る日も来る日も同じものを作り続けている人や、便利だからと仕入れ商品に頼る人は沢山おり、そんな人からは“料理好き”が見えて来ない。その点、彼の料理を見ると、仕込みの大変さが窺える。一日中ずっと厨房に入り、仕込んでいなければならないだろうし、いくら効率よくやっているといってもそれは知恵から出るもの。元来が好きでないと、こうは手作りにできないものだ。
あらかじめ湯浅醤油と丸新本家の商品を送っておくと、イタリアンながらもうまく醤油や味噌を使ったものを考えてくれた。醤油・味噌は日本人にとってなじみのあるもの。だから和食以外では難しい。その味を際立たせてしまうと、変な創作料理になりかねない。肝要は、それらを用いながら当たり前のように伊料理に仕立てるか。そのあたりが職人の腕の見せ所といえよう。
芝さんが私のためにと特別メニュー(これはあくまで私だけのスペシャリテなので日頃は味わえない)を作ってくれたのは、①前菜・カツオのカルパッチョ②金山寺味噌とインカのめざめで作ったラビオリ③若鶏のロースト④黒ゴマのラスク。前菜は「ルッカ」らしいきれいな一皿。ガラスのプレートに盛って、涼やかな印象を醸している。下に新玉ねぎのピューレを敷き、カツオのカルパッチョとフルーツトマトを載せたものだが、ソースに「魯山人」醤油とバルサミコ酢、にんにくを合わせている。一見、キャビアかと見紛うのがそれで、バルサミコに醤油(魯山人)を入れて粒状にしているのだ。これを見てまさかそんなソースだとは誰もが思うまい。醤油の塩分とバルサミコの酸味がうまく相まってポン酢に近い印象を受ける。そこにフルーツトマトの味がプラスされている。
「この醤油(魯山人)は、使い易い。でもその分、難しかったんです。醤油そのものを出してしまうと伊料理の印象が薄れるので悩んだ揚げ句に隠し味にしようと決めました。形状だけ見ると、醤油だとは思わないでしょ。隠し味とはいえ、けっこう入っているんですよ。塩分が強く出ないようにバルサミコでフォローしています」。あれこれと考えたようだが、ドレッシングだけだと、どうしても透明になってしまい、醤油感はなくなる。なので粒状にしてキャビアに見立てたソースを印象づかせ、実は醤油が使われていると驚かそうと考えた。ピューレになった新玉ねぎがカツオに付き、ソースの酸味と塩味とでうまくバランスを取る。初めはバルサミコの酸味が舌に伝わるが、後から醤油の味が追いかけて来る。これに新玉ねぎの甘さが加わるという芝さんならではの設計図だ。

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二つ目は、芝さんが今後力を入れたいと語っていたラビオリ。これは一品目と違って和の素材(金山寺味噌)をうまく出したいと考えて作ったそうだ。用いたのはインカのめざめ。他のじゃがいもより甘く、それをマッシュポテトのようにして「オリーブ金山寺味噌」と細かく刻んで混ぜた。それをラビオリの生地で包み、焦がしバターソースで仕上げている。「当初はスパゲッティに金山寺味噌を載せようかと考えたんですが、誰がこんなことをやるのかと思わせるものにしようと、ラビオリの中に詰め込んだんです。バターと金山寺味噌は合うので焦がしバターにしてチーズをかけて作ったんですよ」。芝さんの話では、伊北部に甘いパスタがあるらしい。そんな印象をつける一品で、「オリーブ金山寺味噌」がインカのめざめに勝っているのがミソ(!?)かもしれない。かといって和ではなく、十分イタリアンの一品になっており、金山時味噌がこれほど融合するのかと感心した次第である。「商品が届いた時に、この金山寺味噌を見てびっくり。金山寺味噌にオリーブと若布が入っている発想なんて面白いですね。金山寺というと茄子や瓜の印象が強いのにオリーブが入っているなんて。合うと思って使ったんです」と言っていた。
三品目は若鶏のロースト。芝さんによると、他は意外性を狙ったものだが、こちらは王道路線だとか。「白みそ」とバーニャカウダを合わせたソースを敷いてローストしたチキンと野菜(筍・インカのめざめ・空豆)を載せている。「自家製のバーニャカウダに『白みそ』を加えることで、ソースに甘みと味の深みを持たせました。バーニャカウダはいつもよりアンチョビを減らしています。『白みそ』が有す塩味や甘みが合っていると思います」と説明する。けっこう白みそを利かせたらしいが、くどい味ではなく、これも和では決してない。言われると白みそが入っているのはわかるが、何も説明なければその存在はわからないだろう。「今回はローストしたチキンにかけましたが、何にでも合うと思いますよ」とは、まさにその通りだと思う。付け合わせの野菜に絡ませても美味しく味わえた。

 

 

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最後は、私が来る前に遊びで作ったというラスク。黒ゴマのフォカッチャをラスクにしたものだ。片方をバター、「白みそ」、砂糖を載せて焼き、もう片方を「白みそ」、白ごまペーストを載せて焼いている。後者にバターを用いなかったのは、白ごまペーストに油分が多いからあえて使わなかったらしい。白みその甘じょっぱさが面白い一品で、餅に砂糖醤油をかけて焼くイメージに近い。バターがあるから洋に思えるが、うまく白みそが利いている。「白みそ」は使い易いとの印象を受けたと話していた。丁度いい甘さと辛さがあって、うまくはまったようだ。「主張しすぎることはなく、それでも味はまとまるからいい調味料ですよ」というのが使った印象。このラスクは遊ぶつもりで作ったそうだが、意外にもメニューとして出せるものになっていたようだ。
芝さんは、普段から昆布を水に浸し、そのだしでパスタの時の水分調整をしていると言う。日本の伊料理だからといっても「ルッカ」では決して和風パスタは出さない。それが伊料理とは言い難いもので、あえてこの店で提供する必要がないと思っているのだろう。それでも芝さん自体に素材や調味料のボーダーラインはない。和のものを用いたところでそれが変な創作料理にならなくて伊料理の範疇に入っていれば良しとするからで、そのためにはいかにイタリアンっぽく見せるかを考える必要があると語っていた。「うちではありませんが、伊料理店でピータンを使っている所もあるし、チャンジャとクリームチーズなんてよく考えたなと感心します。要は作る人の問題意識じゃないでしょうか。私は『これがルッカの料理だ』と思って考えますので、うちらしい伊料理になったのではないですかね」と振り返る。確かに和の調味料を使えども「ルッカ」の伊料理になっていた。傾きを考えながらうまく伊料理の方へ戻していく_、それが芝さんの真骨頂なのだろう。

 

 

  • <取材協力>
    Trattoria Lucca


    住所/大阪府寝屋川市東大利町7-1 EFFECTOR2nd 1階

    TEL/072-826-0155

    HP/ 公式HPはこちら
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    営業時間/営業時間/11:30~14:00LO 17:00~22:00LO

    休み/火曜日

    メニューor料金/
    メニュー/本日のパスタ     1400円~
         天使の海老トマトクリームソース リングイネ
    で 1350円
         色々野菜のペペロンチーノ     1200円
         自家製ベーコンのカルボナーラ   1300円
         若鶏のコンフィ          1950円
         豚肉のグリル マスタードソースで
         120g 1500円
         200g 1800円
         本日の鮮魚ポワレ         1700円
         Lucca特製前菜盛り合わせ(2人前)  1800円

                             
         豪快天ぷら盛り     1880円
         牛タンネギ塩ダレ    980円
         ゆず香る鯛にゅうめん  880円



筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい