70 2019年01月餃子は今や日本の食文化の一端を担っている_、そう表現しても過言ではないだろう。ラーメン、餃子、唐揚げは中国に端を発しているが、本場とは少し姿を変えて日本に根づいた。その象徴が焼き餃子の存在で、中国では水餃子がポピュラーとされているのだ(食の現場から第5回を参照)。今回紹介するのは、女性が営む和歌山の餃子専門店。JR和歌山駅東口から徒歩2分のビルの二階に2017年5月にオープンした店である。神戸や大阪では珍しくない餃子専門店だが、和歌山にはあまりなく、その希少性を見越して大野由里子さんが起業した。女性らしくスタイリッシュな餃子屋さんとはどんなものなのか。とくとご覧あれ…。
餃子日和 大野由里子
(餃子日和店主)
「豚肉がたっぷり入っているから
『極撰黒豚餃子』には『カレー醤
油』を合わせました。日本人にな
じむカレーの味に開発したもので、
スパイスも利いており、肉の多い
餃子にはぴったりです。」
まだまだ和歌山人には珍しい餃子専門店
神戸育ちの私からすると、餃子専門店の存在は珍しくないのだが、中華のメッカ・神戸と他地域との食文化の温度差はまだまだあるらしく時に「エッ!?その店は餃子しか食べるものがないんですか」との質問を受けることがある。県庁所在地である和歌山市でもまだまだの存在は珍しいようで、「うちがオープンした時は、和歌山には餃子専門店がなかったんですよ」と「餃子日和」の大野由里子さんは語っている。この店は、JR和歌山駅東口すぐの所に位置しており、幅広い年代層が利用する評判店だ。
大野さんは、俗にいう理系女子(リケジョ)で、大学を卒業した後、地元の酒造メーカー・中野BCに勤めた。配属は開発部で、みかんや梅などの機能性研究を行っていたそうだ。リキュール系の開発などにも携わっており、そのためにカクテルもよく知っている。中野BCを辞して独立しようと決めたのは、酒の知識があったとこと、物作りが好きだったことによる。和歌山にないものを探していたら、餃子専門店が頭に浮かんだらしい。「餃子は、焼・蒸す・茹でる・揚げると、調理法を変えるだけで変化していく料理。中の具を替えると味わいが違ってくるので面白いと思いました」と言う。元来、飲んだり食べたりも好きだったし、人と接するのも苦にならない性格らしい。「逆に開発は人と接しなかったから、むしろ飲食店経営は刺激的だった」と起業した理由を教えてくれた。朗らかで明るいイメージを持つとネーミングした「餃子日和」は、流石に女性が経営するだけに明るい雰囲気。オヤジが一杯飲る餃子屋とは一風異なる。そのせいだろう、女性の一人客も多いようだ。大野さんに聞くと、客層は幅広く、60代の日本酒好きから小学生連れの主婦までが利用しているという。
同店は、「元祖餃子」「極撰黒豚餃子」「鶏餃子」「しそ餃子」「エビ餃子」「水餃子」「ゆで餃子」というラインナップ。そこに唐揚げや角煮、ゆで豚、おかず味噌クリームチーズ添えなどの酒のアテが加わる。酒は日本酒が中心で、ビール・ウイスキー・焼酎・ワイン・カクテルと色んな種類があり、酒造会社出身らしいラインナップの豊富さを物語っている。カクテルが多いのもリキュール系開発を手がけていた所以か。中でも湯浅醤油の「みかん甘酒」を使ったものがオススメらしく、それをマンゴージュースで割って提供している。「みかん甘酒は、コクがあって一般的な甘酒とは趣が異なります。みかんの酸味が利いて飲みやすいのがいいですね」。ちなみにこの「マンゴーみかん甘酒」は500円で売っている。
餃子ごとに醤油を替えて漬けダレに
さて、肝心の餃子の方だが、こちらも女性らしい視点が出ていて面白い。スタンダードである「元祖餃子」は、野菜がたっぷり入っているのが特徴。野菜が肉の倍入っており、ヘルシーな印象を受ける。野菜が入りすぎると、水が出るのが一般的だが、それがないように下処理をしっかりしているそう。「健康的で、ご飯にも合うように設計しているので子供にも好評です。食べ飽きない味がいいんでしょうね」。勿論、酒のアテにもフィットするので、まずはこれを注文し、「黒牛」(和歌山・海南市の日本酒)あたりで一杯飲るのがいいのではなかろうか。「元祖餃子」と対照的なのが「極撰黒豚餃子」、こちらはその名の通り豚肉をたっぷり使って仕上げている。ブランド豚の「黒の匠」を用いているそうで、肉が多くてもしつこくなく、甘みを感じるからこの素材を選んだと話していた。「極撰黒豚餃子」は、にんにくを使用していない。その分、生姜や山椒を利かせてスパイス感を出しているそうだ。
「餃子日和」の特徴は、漬けダレにもある。大野さんが各々の餃子に合うように醤油をチョイスして使いわけているのだ。例えば、「元祖餃子」と「しそ餃子」には湯浅醤油の「樽仕込み」を、「極撰黒豚餃子」には「カレー醤油」をといった具合である。その他「エビ餃子」は「柚子梅つゆ」、「水餃子」は「ゆずぽん酢」を薦め、「鶏餃子」は柚子胡椒で味わうようになっている。テーブル上には、醤油が各々置かれ、薦める醤油をベースにしながら、ラー油と酢を合わせて個々の好みに作るようになっているのだ。「お客様には割り合いは教えますが、システム的には個々で混ぜ合わせて好みの味にしてもらうんですよ」。
実は大野さんは、湯浅醤油とは親戚筋にあたる。なので昔からここの造る醤油には慣れ親しんでおり、その特徴を知っているためにこのような使い分けができるのだ。「湯浅醤油でも『蔵匠 樽仕込み』はスタンダード。舌を刺さない優しい味が餃子本来の味をいかしてくれるので選びました」と説明している。少しマニアック気味な「カレー醤油」を「極撰黒豚餃子」に合わせたのは、豚肉を多く使っているからで、日本人になじむカレーの味用に開発したその醤油がぴたっとはまったのだと話していた。
「エビ餃子」は、焼きと蒸しがあるが、どちらかというと蒸しの方が人気があるようだ。餃子のタネは、海老と玉葱、油で仕上げたもの。食感と甘みを考えて海老を三種類使っている。三種の海老を使用するのは、コスト的なものもあろうが、三つを合わせることで甘みと旨みがアップするのだと言っていた。蒸すからだろう、他よりもあっさりしている。そのあっさりさを強調すべく「柚子梅つゆ」を漬けダレにしている。この商品は、酸味が強くないのがよく、和風の雰囲気が出る。近くにはホテルが多いせいだろう、時折り訪日観光客が入って来る。海外の人でも"ギョーザ"は知っているようで、中味の違いを説明しながら注文してもらう。そんな彼らにはことさら「エビ餃子」の評判がよく、「柚子梅つゆ」を気に入ったのか土産に買って帰りたいという人までいる始末。「餃子日和」が湯浅醤油のいいPRにもなっているような気がする。
大野さんは、具材をこねる時に気持ちをこめているという。野菜も冬と夏では水分量が異なるのでシーズンに合わせて調整している。決して作り置きと冷凍はしていないのが信条で、食べるスピードに合わせて焼いたり、飲みたい気分に合わせて出している。メニューも手作りで、会計表にもメッセージを添える。これが彼女のいう"気持ちを込める"の表れの一つだろう。冬には「プチ餃子鍋」が登場予定。チゲスープに水餃子と豆腐、キノコ、野菜たっぷりを入れて煮込んたもので、温まること間違いなし。店名の"日和"には、そんなほっこりした気分も含まれるのだろうと勝手に解釈してしまった。それくらい「餃子日和」は、幸せな空気が流れている。
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<取材協力>
餃子日和
住所/和歌山市太田1-9-6 356ビル2階
TEL/073-473-9473
HP/ 公式HPはこちら
Instagramはこちら
営業時間/16:00~24:00(23:00LO)
休み/火曜日
メニューor料金/
元祖餃子 350円
極撰黒豚餃子 400円
鶏餃子 400円
しそ餃子 400円
エビ餃子 500円
水餃子 400円
筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。